第12章 火神大我
彼女とはじめて出会ったのは、入学式という晴れの日を待ちきれずに開花し、はらはらと散り始めた花びらが舞う春の日。
去年新設されたばかりの真新しい校舎を興味なさげに見渡しながら、退屈でしかなかった入学式を終えた火神は、一年間過ごす教室へとひとり向かった。
(ドコ行ったって、どーせなんも変わんねぇ)
誠凛高校を選んだことに理由はなかった。
その選択が、彼の運命を大きく変えることになろうとは、勿論この時の彼が知る由もないが。
黒板に書かれた座席表を軽く一瞥し、くさった気持ちを持て余したままドカリと乱暴に椅子に腰を下ろす大男の迫力や、まるで大型の肉食獣。
名は体を表すとは、よく言ったものだ。
「あれで俺らとタメとか、マジかよ……」
「怖ぇ~」
だが、ヒソヒソと、そして遠巻きに見つめるクラスメイトの視線など、今さら痛くもかゆくもない。
窮屈な机に片肘をつき、大きな欠伸をひとつ。
そんな新入生としての初々しさの欠片もない火神にただひとり、遠慮がちに声をかけてきたのが彼女だった。
「あ……あ、の」
「あ?何だよ」
「ごごごごめんなさいっ!で、でも……その席、私の席……じゃないかと、思うんだけど」
それは、のちに彼の影となり、そして最高の相棒となる黒子テツヤと出会う前に起きた、小さなキセキだった。