第8章 今吉翔一・牛島若利 【R18】
意志の強そうな唇を真一文字に結び、コツリと玄関に踏み込んでくる足音と、後ろ手で器用に鍵をかける金属音に、心を一瞬で拘束される。
一歩で距離をつめてくる身体にまとう熱は、夜になっても下がらない外気温のせいなのか。
「お前まで俺を煽るつもりか」
「ちょ、何……ん、ふ」
壁に追い詰められて塞がれた唇では、彼が何を言っているのかを問うことも、ましてや苦情も訴えることも叶わない。
後頭部を固定され、深く侵入してくる舌に口内をかき回されて、指先に触れたネクタイに縋りつく。
必死で酸素を吸いこもうとするたびに、角度を変えて重なってくる激しいキスにガクガクと足を震わせながら、結は分厚い胸板を渾身の力で押し返した。
「は、っ……どう、したの……こんなの、らしくない」
「俺らしくない?」
ノドの奥でくっと笑う声が頬をなで、たどり着いた耳朶を甘く揺らす。
「あんな風に挑発されて黙ってろ、とでも?」
計算ではなく、素でそう語る彼はやはり生まれながらの王者なのだろう。従う以外の選択肢は存在しない気がする。
支えてくれる腕に身体を預けながら、いつもより体温の高い胸にそっと押し当てた手のひらから伝わる鼓動に、渇ききった唇の隙間から愛しいヒトの名を呼ぶ。
「若、とし……」
「アイツには気を許すなといつも言っているだろう。まだ分からないのなら」
シングルベッドへと連れ去る腕に身をまかせ、闘争心に火がついたように荒々しく肌を這う左手に体温が上がる。
ねっとりと肌を愛撫する唇を受け止めながら、シャツに潜りこんでボディラインをなぞる手のひらに、もっとと強請るように揺れる腰がシーツに波を起こす。
「もっと俺を欲しがればいい。俺だけを」
「ン、ぁっ」
際どい場所に咲かせたシルシを満足気になぞる指が、もどかしげにネクタイを抜き去る。
その仕草に目眩を覚えると同時に、全身の血が滾るのは必然で。
この熱を下げられるのは、もう世界でただひとりだけ。
「そのネクタイ……すごく似合ってる」
「お前の見立てだからな」
ふっと口の端で笑う幸せの瞬間は誰にも渡さない。
こんなにも独占欲に支配されているのは自分も同じだと思い知らせるように、結は激しく波打つ背中を力の限り抱きしめた。
熱帯夜 with 牛島若利