第6章 青峰大輝
「てか、勇ましいな。それで殴るつもりだったのかよ」
「こ、これは」
あわてて腕を下ろすが時すでに遅し。
ヒールの高さをあっさりと無にする身長差に怯むことなく顎をあげると、私は楽しげな色をたたえる瞳を見返した。
「不可抗力です」
「ハッ、気の強い女は嫌いじゃねーぜ。ちょっとサイズは物足んねーけどな」
「……サイズ?」
「青峰君。初対面の女性に失礼ですよ」
「へーへー」
不敵な笑みと、からかうように見下ろしてくる蒼黒の瞳の持ち主は、どうやらアオミネという名前らしい。
アオミネ……?
その名に、さっきから違和感を覚えていた脳細胞がバチバチと弾ける。
嘘、まさかこんなところにいるなんて。
「しっかし黄瀬のヤツ、何もこんな時期に式挙げるこたねぇだろーに。最悪だろ、このジメジメした空気」
軽く舌打ちし、鉄紺の髪をかきあげる彼の仕草に目を奪われて、ピクリとも動けない。
心臓が早鐘を打つ。
なんだろう、この身体中の血がふつふつと沸き立つような感覚は。
「仕方ないですよ。プレーオフのことを考えたら、まとまったオフはこの時期しか取れないんですから。じゃあ、鼻の下を伸ばした黄瀬君に会いにいきましょうか」
「そうだな」
「しゃーねぇな。ダリィけど行くか」
キセにアオミネ、そしてプレーオフ。
(ということは、さっきカガミって呼ばれてた彼は、もしかしてシカゴ・ブルズの!?)
疑惑を確信に変えながら、記憶に焼きついた単語を口の中で繰り返しつぶやく。
今までバスケの試合など観たこともなかった人間の視線を、一瞬でクギ付けにする奔放なプレイスタイルと、人を惹きつけてやまないカリスマ性。
「青峰、って……あの、バスケ……の」
小さなつぶやきに反応して、一度は背中を向けた彼が、横顔だけで振り返り、子供のような顔で笑う。
「バスケ、好きか?」
それが、NBAの第一線で活躍する日本人プロバスケットボールプレイヤー、青峰大輝との出逢いだった。