第6章 青峰大輝
キセキの出会いから二年。
今日私は、あの日出逢った彼と永遠の誓いを交わす。
昨夜から降っていた雨は、ふたりを祝福するかのように明け方にはすっかりあがっていた。
「日本には雨降って地固まるという諺があるくらいですからね。きっと素晴らしいお式になると思いますよ。髪飾りはこの位置でよろしいですか?」
結い上げられた髪に光るティアラは、『こっちの方がお前には似合うんじゃねーか』と式の準備には無関心な彼がさりげなく選んでくれたシンプルなデザイン。
くすぐったくて恥ずかしくて、とても鏡なんて見られない。
「……おまかせします」
「じゃあ、そのまま動かないでくださいね。ベールとのバランスを確認しますから」
ふわりと視界を覆うミドルベールの下で、高鳴る胸に手を押し当てて、小さく深呼吸をしたその時。
「準備出来たか?入んぜ」
今もその傍若無人さは変わらない。
入室の是非を問うこともせず開けられる扉に、「お式が始まるまでは、花婿さまの入室はご遠慮いただいております」とマニュアル通りの忠告とともに後ろを振り向いた介添人が、言葉を失う。
「ま、ぁ……なんて」
目だけを上げて、鏡に映る彼の姿に胸が熱くなる。
黒のタキシードが世界で一番似合うのはきっと彼。
こんな人が私のダンナ様になるなんて、人生何が起こるか分からない。
「意外と似合ってんじゃねーか、そのドレス」
「意外って何それ。ヒドくない?」
鏡越しに交わす会話に、恋人らしい甘さが微塵もないのはいつものこと。
でも、白い歯を見せて肩を揺らす彼が、誰よりも純粋にバスケを愛していることも、そして私のことを大切にしてくれていることも、分かっているつもりだ。
ンン、とわざとらしい咳払いをして係の女性を追い払った後、セットされた髪を不機嫌そうにかきあげる腕も。
「ちゃんと幸せにすっから……泣くなって」
ぶっきらぼうな声も。
鮮やかにボールを操る手も、コートを一陣の風のように駆けるしなやかな身体も。
「泣いて……ないもん」
「ったく、こんな日くらい素直になれっての。奥サン」
照れくささを隠すように口角をあげる唇も──全部大好き。
コツコツと近づいてくる幸せの足音に耳を澄ませながら、私は最愛の人に気づかれないように、小さく鼻を啜った。
end