第6章 青峰大輝
(なんだろ、あそこにいる人達……)
少し離れたフロアに見える人の群れに、思わず足が止まる。
十人はいるだろうか。
遠目でもそれと分かる長身と、目を見張るようなたくましい身体。
一様にブラックフォーマル姿であることから、自分と同じように挙式か披露宴に出席する予定なのだろうが、その迫力たるや最高ランクの星三つ。
外国人らしき人物もいるところを見ると、有名な野球選手がここで式でも挙げるのだろうか。
シーズンオフでもないこの時期に。
「ま、いっか。化粧でも直そ」
ズレ落ちたショールを肩にかけ直し、化粧室を探そうと頭を右に、そして左に振った私は、目の前に突然現れた何かにぶつかって派手によろめいた。
「わ、っ」
「すみません!大丈夫ですか?」
履きなれないピンヒールで転ばなかったのは幸いだとポジティブに考えながら、私は頭の中で首を捻った。
人の気配はなかったはずなのに。
「い、いえ……私こそすいませんでした」
「いいえ。多分悪いのはボクの方なので」
目の前で心配そうに小首を傾げる年齢不詳の男性のつぶらな瞳が、パチパチと瞬く。
透明感のある声に似合う、優しげな雰囲気を持つ彼の言葉の意味が分からないまま、もう一度頭を下げようとしたその時。
「こんなとこで何やってんだよ、黒子」と頭上から降る第二の声は、なかなかのイケメンボイス。
「火神君」
斜め上を見上げて、ふわりと微笑む彼の視線を追いかけた私は、壁のように立ちはだかる男性の姿に、生唾を飲みこんだ。
「式の前に黄瀬に会いに行くんだろ……って何だよ。知り合いか?」
「いいえ。ボクの不注意でぶつかってしまって」
「ったく、こんな時まで気配消すなよな」
背中を流れ落ちるひとすじの汗が、ヒヤリと肌を刺す。
「ワリィな、こいつが迷惑かけたみたいで。大丈夫か?」
燃えるような赤い髪に、鋭い眼光。
スーツにネクタイを締め、正装しているとはいえ、差し出される巨大な手に、私は死を覚悟した。