学園は溺愛の箱庭(ONE PIECE長編学園パロ夢・番外編)
第2章 聖夜のシンデレラ(*)
「…俺はテメェらのオヤジかよ」
「じゃあこれからお父さんって呼ぶ?」
「…やめろ」
冗談めかしたやり取りが、何故か心に小さな痛みを残した
しかしゾロは気付かないふりをする。その痛みの原因は…知っているが、知りたくはなかったから
「初めて見た」
「ん?何を?」
「トラ男がお前を見ているときの目だ。あんな凶悪そうなツラしといて、テメェが愛おしくて堪らないって気が伝わってくる」
ゾロは人の“気”を読むことが出来る
それは決して形のないもので、非常に複雑だが人の真意が伝わるものだった
「俺と似て、人とあまり関わりは持たねェヤツだったみたいだが。お前と出会って、変わったんじゃねェのか」
「そう、なのかな」
「お前も出会った頃は人に遠慮してばっかで、どっか距離を置こうとしてただろ」
「よく見てるね、ホント」
そんなところまで見抜かれていたとは、なんだか恥ずかしくてセナはほんのり顔を朱に染める
「俺には分からねェけどよ、お前らは確かにお互いを想い合ってたと言えるんじゃねェのか」
「お互いを、想い合う…」
「これで満足か?俺ァ鍛錬に戻る」
立ち上がると道着の砂を払って、荷物に手を伸ばすと
そっと細く滑らかな手が添えられた
何事かと顔をあげれば、こちらを見つめるキラキラとした瞳
「ありがとう!」
「別になんもしちゃァいねェ」
「ううん、すごく大事なことに気付かせてくれたよ!」
例え記憶がなくても、お互いを想い合うことはできるのだ
どうして、今まで気付かなかったのだろう
例え今日、思い出せなくても…自分のするべきことを、教えてもらえたような気がしていた
「ならさっさと思い出してやれ。あれでもだいぶ参ってるみてェだからな」
1人2人と思い出すたびに、ローは何度彼女の記憶から消去されたのか
彼女が知り合った人の数だけ、彼には忘却が付きまとっていた
「絶対、思い出してみせるから!」
「わーったから。手ェ離せ、時間だ」
「あっ、ごめん」
決意と共に力の込められた手が温かく、この温もりを知ってはいけないと思い至って突き放す
真冬の寒空の下、温もりの離れた手はすぐにかじかむほど冷え切ってしまう
自ら突き放しておいて、それが酷く寂しい事だとゾロは自嘲した
そんな複雑な心境を悟られまいと、セナに背を向け道場へと歩き出す
「ゾロ!本当にありがとう!」