学園は溺愛の箱庭(ONE PIECE長編学園パロ夢・番外編)
第2章 聖夜のシンデレラ(*)
混濁した記憶の断片を、無理やりに引きずり出そうとすれば
脳には多大な負担がかかるはずなのだ
「?こいつにゃ記憶がねェんだろ?なんでトラ男を“思い出そう”とすんだ」
「バッカ、これだから脳内までマリモちゃんはよォ。愛だろ、愛。2人は深い愛で繋がってんだよ」
「テメェが言うとムカつくんだよ、エロガッパが」
「ああン?」
「黒足もロロノアもやめろって!」
「うぉっ」
「あぶねっ」
ゾロとサンジがいつもの言い合いになりかけたところで、真剣に話を聞いていたベポが怒りを露わにして拳法を繰り出した
「セナが苦しんでるのに…なんなんだよ」
つぶらな瞳を潤ませ、怒りを露わにする
その背を、ペンギンとシャチが両サイドから宥めるように撫でた
「…ッチ悪かったよ」
「そうだな、今一番苦しいのはセナちゃんだよな」
人ではない、彼さえこの状況の深刻さを痛感しているのに
日常茶飯事とはいえ自分たちの軽率さにお互いバツが悪そうにする
「キャプテン、セナの記憶はちゃんと戻るよね…?」
不安げなベポの声に、全員の視線がローに集まる
一斉に注目を浴びたローは暫く口を閉ざし、仲間内に沈黙が訪れた
少し経った後、ようやくローが口を開く
「記憶は、戻る」
強く言い切られた言葉に、全員が安堵の息を吐いた
ローは再び腕の中のセナを見つめる
痛みは引いたのか、その顔はただ眠っているだけのように見えた
『お前は今、何を見ている?』
記憶の無くなった脳内で見る夢は、彼女に何を与えてあるのだろう
今一番に思い出したのはたった1人、それはローではなく
親友のキッドだった
『絶対に、思い出させてやる』
さほど変わらない付き合いのキッドを思い出して、自分を思い出さないなど許さない
『お前が見ているのは、俺だけでいい』
目元を覆い隠す栗色の前髪をそっとよけてやりながら、次にこの瞳が開く時には自分が一番に映ればいいと思う
そんなガラにもないことを願うほど、腕の中の存在が愛おしくて堪らない
「んん…」
ふるりと、長い睫毛が小さく震えるとかすかな声が聞こえた
そしてゆっくりと、重い瞼が開かれる
「……、れ…」
「なんだ?」
「…誰…です、か?」
大きな黒い瞳に確かに自分の姿は映っているのに
その愛らしい唇は非情にも残酷な言葉を吐き出すのだった