第2章 Malaise
食事を終えて、お父さんに一礼して部屋を出ていこうとした時。
父「雅紀。今日は和也くんの入社式だったな?」
「はい。そうです」
父「そうか。それならお祝いしないとな。私の車を使いなさい。長瀬も貸そう」
「は?でも、今日は俺の車で行く予定で…」
お父さんが食事の手は止めずに目線だけ俺に寄越してきた。
ビクッと身体が小さく跳ねる。
「はい。ありがとうございます」
俺はお父さんに一礼して、部屋を出た。
扉の横に恵と潤が立っていた。
恵「兄さん、お父さんの話って?」
「ああ。今日はお父さんの車を使えってさ。長瀬っちも貸すってさ。はは。ごめんな。俺の車はまた今度。な?潤」
潤が「うん。また…」と言って微笑む。
だけど、一瞬沈んだ顔をしたのを俺は見逃さなかった。
大学を卒業してから車の免許証を取得した。
お父さんに対しての小さな抵抗だ。
免許証を取ったはいいが、俺は運転が壊滅的に下手だった。
なんとか他人を乗せても大丈夫かな?くらいまでになったのはつい最近。
潤は俺の運転する車に乗るのを楽しみにしていた。
やっと、潤を乗せられる。
そう思って俺だって楽しみにしていたのに…。
潤「お父さんの車でも…ふぅ…かずくん…と、翔くん…に…ふぅ…会えるの…楽しみ……だから、兄さん、気にしないで…」
潤…。
ごめんな…。