第1章 NO MUSIC,NO LIFE
そして文化祭当日。
僕たちのクラスの出し物は定番中の定番、焼きそば。
僕はめんどくさいのが嫌だから、ひたすら野菜を切るだけ。
時間を見れば、そろそろステージの発表が始まる時刻だった。
プログラム的にさんの出番は6番目だった気がする。
「山口、僕ちょっと抜ける」
「あ、うん。楽しんできてね」
にっこりと笑う山口。
僕は一度だけ大きく頷いた。
体育館へと行くと人がうじゃうじゃといて、それだけで僕の気持ちはマイナスへと急降下だ。
できるだけさんを近くで見たくて、人と人との間を潜り抜ける。
順調にプログラムが進んでいき、さんの番となった。
椅子に座り足を組んでギターを手にして、スポットライトに当たる彼女はいつも見る彼女と違って、ただただ美しいと思った。
マイクを手にして「あーあー」と音量を確認する。
「えっと、今から歌う曲はある人に向けて歌います。まあ、いわゆるラブソングというやつです。そいつが今この会場にいるかわからないけど、聞いてください」
そして彼女は歌った。
相変わらず拙いメロディー。
声だって緊張で少し震えてる。
だけど、うん。
やっぱりあなたの唄は聞き心地がいい。
ラブソングだと言ったけど、誰に向けての唄だろう。
僕だったらいいのになんて、ガラにもないこと思ったりしている自分がいて少し驚いている。
真っすぐに彼女のことを見つめる。
すると、彼女と目が合った。
そしてにっこりと眩しい笑顔を僕にくれた。
僕はもう彼女のことを見ていられなかった。
わかってしまった。
彼女の好きな人。
自惚れだとか自意識過剰だとか思われてもいい。
彼女の好きな人は、僕だ。
「ありがとうございました」
汗を流して、たくさんの拍手に囲まれて、彼女はステージを下りた。
僕は急いで彼女の後を追う。
楽屋にいるもんだと思ったが、いないと言われ僕は彼女を探した。
教室は出し物でさんがいる可能性は低い。
頭をフル回転させ、僕は学校を駆け回る。
中庭にもいないとなると……。
「あそこか」
僕は学校を飛び出して、公園へと向かった。