第4章 20年越しのアイ・ラブ・ユー。
木兎の気配に気が付いたのか、女性は木兎に一度会釈をする。
「あの……」
「今朝偶然ここを通ったらここのイチョウが目に留まって……あまりにも鮮やかなもんですからもう一度ここへ来ましたの」
今朝、偶然……。
じゃあこの人は俺の探している人ではないのか。
心臓が落ち込んだ。
少しだけ期待した。
彼女があの少女であると。
「イチョウは嫌いですか?」
「え……いや……」
嫌いじゃない。
むしろ大好きだ。
喉の奥に引っかかる言葉に木兎はイライラした。
「じゃあ、私はこれで」
木兎の横を通り過ぎようとした彼女の手を木兎は咄嗟に掴んでしまった。
驚いたように木兎を見る女性。
木兎は自分の心臓が大きく高鳴っていることを悟られないように少しだけ大きく息を吸った。
「イチョウ……」
「え?」
「今でもイチョウは大好きだ。あんたの髪の毛みたいに綺麗だから」
「……うそ、覚えて、いたの?」
女性の大きな瞳から涙がいくつも零れる。
「ついさっきまで忘れてた。でも、思い出した。忘れててごめんちゃん」
女性は首を横に振る。
零れる涙をそのままに彼女は「会えてうれしい」と微笑んだ。
その様子を物陰から覗きこむ3つの影があった。
「また、10年後もここで会うのかね?どう思う京治君に春樹君」
「いや、たぶん次に会うのはそんなに時間はかからないと思いますよ」
「ここから始まる恋だってあるんだぜ、秋紀くん」
3人はこれ以上2人の邪魔をしないようにゆっくりと踵を返した。
帰り道、強い風が吹いてイチョウの葉が空に舞った。
それを見上げ、ぽつりと呟いた。
「綺麗だな」
Fin.