第1章 NO MUSIC,NO LIFE
あれから毎日、僕は放課後部活が終わった後2年1組の教室に向かった。
毎日毎日彼女が練習する曲を聴いて、目を閉じる。
ぎこちない優しさと温もりがあるメロディー。
僕のお気に入りの曲なんかよりずっとずっといい。
「前より上達してますね」
「あ、わかる?」
「でもぎこちなさは残ってますよ。こんだけ練習してるのに才能ないんじゃないんですか」
「なんだと?いいんだよ。文化祭のためだけだし」
「え?もったいなくないですか?それだけのためにそれ買ったんですか」
「ぶっぶー。兄貴のおさがり」
ニシシ、といたずらっ子のような笑顔を見せる。
さんは言った。
自分は今まで何も挑戦してこなかったから、学生のうちに何か挑戦してみたくて、文化祭で弾き語りをしようと決めたのだと。
「すごい勇気ですね。僕なら無理です」
「失敗しても挑戦したことには変わりないから、そしたらなんにでも挑戦できるんじゃないかなって思ったんだよね」
「じゃあ文化祭が終わったら、ここでの練習もなくなるんですね」
「そうだね~。……なに、寂しいの?」
「そんなわけないじゃないですか。冗談は顔だけにしてもらえます?」
「おい、誰の顔が冗談みたいなブス顔だ」
「誰もそこまで言ってませんよ」
そして警備員が見回りに来る時刻に僕たちは学校を出る。
その後は公園に言って、肉まんを食べながらくだらない話題で盛り上がる。
まあ、盛り上がっているのはさんだけだけどね。