第3章 White note
「そう言う人間なんです。私は。何もない人間なんです」
放課後の教室、誰も居ない教室で私は言った。
目の前にはクラスメイトの赤葦君がいる。
なぜ彼みたいな、勉強もできて部活でも活躍しててクラスのみんなからも人気で、ついでに言えば部活のチームメイトからも慕われている彼がなぜ私みたいな、何もできない何もない女に好意を寄せているのか。
まったくもって訳が分からないと同時に、何かのゲームの罰ゲームか何かだと疑ってしまう。
「何もない人間になぜあなたの様な方が好意を寄せるのかわかりません」
「君が君のことを何もない人間だと思ってても俺はそうは思ってないし、たとえ本当に君が何もない人間だとしても俺は君のことが好きだって何度だって伝えるよ」
そう言って笑う赤葦君。
世の中には私よりもかわいい人はたくさんいるのに。
世の中には私よりも素敵な人はたくさんいるのに。
「一つお聞きしてもいいですか」
「なに?」
「私のどこがいいんですか?」
それだけが気になる。
本当にわからないのだ。
赤葦君は少しだけ口元をゆるめて言った。
「純粋なところ」
「え?」
「人ってさ不思議なことに、成長するにつれてちょっと汚い部分とか出てくるじゃん。君が言うノートが黒くなる感じ。でも、君を見てるとそう言う感じがしなかったんだ。それこそ真っ白い」
真っ白いノートが好きだなんて変わっている。
普通だったらいろんな色が塗られている方が華やかで鮮やかで素敵なのに。
「君は知らないだろうけど、何もない人間は優しさなんて見せないよ」
赤葦君は続けて言った。
落ちているゴミを拾って捨てたり、消されていない黒板を消したり、そういった誰も見てみないフリしてやらないことをやる人は心が優しいと。