第32章 朧ともいはで春立つ年の内
私はいつもと変わらない
ただ、自分の好きなように歩き、自分の好きなように言葉を発する。
でも、いきなりそれが変わった。
私は忘れ去られ、自由に江戸を歩くことも出来なくなった。
その原因を創ったのは、誰?
『紛れもなく・・・あなたよね、不二磨ルイさん?』
目の前で震えている女を見据える。
可愛らしい、天使のような女。
その容姿に隠された心は、天使とはいい難いが。
ル「何の話?私は真選組の参謀、不二磨ルイ。あなたとは何の関係も・・・」
『・・・真選組参謀と言えば・・・舞鬼神と呼ばれるほどの強さを誇った、鬼才。ならば・・・』
動かせる右手で居合の構えを取った。
『私と手合せしても、やられるのはこちらの方よね?』
ル「なっ・・・」
『本物の舞鬼神なら・・・ね』
笑顔で告げると、ルイの顔は曇った。
この女は、戦えない。
人を洗脳することは出来るが、戦闘はまるっきし駄目。
体に、筋肉が付いているかと問えば、十人並み。
ル「・・・」
『痛い目見る前に、洗脳解いてくれない?』
ル「私はただ・・・」
『あなたの大好きな十四郎さんの洗脳は、もう解けてるけどね?』
ル「そんな!?」
ルイは心底驚いた顔で、トシの方を見た。
トシは大きく煙を吸い込むと、諦めたように吐き出す。
土「瑠維が何したかは知らねぇが、こっちに非があるのはわかってる。それについては謝る」
『・・・ちょっと?』
土「だからっつって、何してもいいとは限らねぇだろ?今ならお咎めなしだ、元に戻せ」
え?完全に私が悪者?
今の言い草、明らかに私が悪いよね?
ちょっと・・・ちょっと!?
ル「・・・わかりました」
いや、私にはわかんない!
ル「でも、最後に言わせてください」
やめてぇぇぇ!!どうせ私が悪者なんです!
やめてくださいぃぃぃ!!
ル「あなたの事、本当に愛してました。少しの間だったけど、あなたに愛されて幸せだった・・・」
土「ああ」
ル「ありがとう・・・ございました」
ルイは泣きながら謝り、洗脳を解いた。
トシは優しい顔で微笑みながら、ルイの頭を撫でてやっていた。
問題は私だけで・・・
『銀時ィィィ!!また私、忘れられてるよォォォォ!!』
銀「いや、誰も忘れてねぇって」
『もぉぉぉ、嫌だァァァ!!』