第31章 願ふ事あるかも知らず火取虫
土「なんでてめぇは、口より先に手が出るんだよ!?」
股間強打の痛みから、何とか復活したトシに思い切り怒鳴られた。
『トシが悪いんでしょ!?思い出してるなら言ってよ!』
私正論だよね!?なんでそんな微妙な顔するの!?
なにその軽蔑したような目は!?
土「察すりゃいいだろ!!キスした時点で気づけ!」
『そんな簡単に信じられるほどトシのこと、信用してない!!』
信頼はしてるけど・・・
土「信用って・・・おめぇ、信用してねぇのか!?」
『信用してねぇよ!!私のこと忘れてるようなバカをどう信用しろって言うのよ!?』
忘れたまではいいけど、挙句の果てに無理やり襲う始末!
信用しろって言う方が無理でしょ!
『・・・手が出るに決まってんでしょ。あの時、怖かったから・・・』
だから、と言葉を紡ぐ前に抱きしめられた。
煙草の匂いが広がる。
ああ、トシの匂いだ・・・
でも、こうやって安心してるのに、
抱きしめられたその一瞬、体が跳ねた。
土「・・・すまねぇ、怖かったよな」
『誰のせ・・・だと、思って、のよ』
涙をこらえながら軽口を叩く。
それとは対照的に、私の手が、行き場もなく彷徨っている。
それに少し不安そうな雰囲気を出していたので、その手をゆっくりとトシの背中に回した。
土「すまねぇな」
大きな手で壊れ物を扱うようにして頭を撫でられた。
怖かった
それは、無理やり犯されそうになったからじゃない。
トシに忘れられたことが
居ないことになっているのが
心の底から怖かった。
『女・・・の子・・・になってる』
苦笑と鼻声が混ざっており、なんとも言えない声。
土「ん?」
『普通の・・・ね。女の子みたいに、好きな、人に・・・忘れられた、事が、ね。怖かった・・・し、辛かった』
途切れ途切れに紡いだ言葉にトシは笑った。
土「そうだな。いつの間にか女らしくなったな、お前」
『・・・いや?』
トシの胸に顔を伏せたまま。
でも、トシが困った顔をしたのがわかった。
土「嫌じゃねぇよ」
低くて優しいトシの声。
久しぶりに聞けたな。