第31章 願ふ事あるかも知らず火取虫
『ボイスレコーダー』
土「あ?」
『あれ、私のもの。暗証番号も知ってる』
よこせ、という意味合いを兼ねて言うと、難なく渡された。
暗証番号を入力し、ロックを外す。
トシは興味津々でこちらを見ていた。
『聞く?』
土「いや、何に使う気だ?」
『さぁね』
挑発的ににやりと笑って見せ、そのまま踵を返した。
着ている服は、真選組の隊服。
一番動きやすい服装だからだ。
その裾を、クンと引っ張る手があった。
振り向くとトシが。
というより、トシ以外にこんなことをする男はいない。
なに、と口を開こうとしたが、それは塞がれた。
『んぅう・・・』
キスされてる、と頭が認識してからは速かった。
一度胸板を強く押した。
効果はない
肩を押す。
これも効果がない。
・・・使いもんにならなくても知らないよ。
うん、自業自得だ、このバカァァァ!!
心の中で叫ぶと、私の口を塞いでいる張本人の
一番大切な部分を私の膝で蹴り上げた。
思った通りの反応だ・・・
土「いっつぅ・・・」
急所に手を当て、前のめりになるトシ。
『自業自得』
私はトシを見下すように、冷たく吐き捨てた。
『思い出してないとか言いながら、キスしてくるってどーゆーことよ!嫌がらせ!?』
いつものようにキャンキャン吠えまわる私。
トシは冷や汗をだらだら流している。
土「おま・・・これ、使いもんに・・・ならなくなったら・・・どうするつもりだ。困るのは・・・おめぇ・・・だろ」
途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、相当痛いのだろう、涙目になりながらこちらを睨んでくる。
『知らないわよ!つーかこま・・・困るのは・・・私?』
・・・どーゆーこと?
え?え?え?
今のトシには私の記憶がなくて・・・
もちろん、私とトシが、その・・・そーゆー関係ってことは・・・知らないわけで・・・
今のを要約すると・・・
『はぁぁぁぁ!?』
気が付くと私は叫び声をあげていた。