第31章 願ふ事あるかも知らず火取虫
『どうすっかねぇ・・・』
屋上でぽそりと弱音を吐いた。
あれだけガードを固められていたらどうにも動けない。
病院で乱闘騒ぎを起こすのも気が進まない。
ジミーが起きてくれれば、万事解決なのだが・・・
『それが出来ないから悩んでるんだっつーの』
はぁ、とため息をつき、がっくりとうなだれると・・・
目の前には手すりがあって・・・
『だっ!?』
ガツッと鈍い音を立てる。
無論、私の頭が。
重力に任せて頭突きをしてしまったせいで非常に頭が痛い。目から星が出るんじゃないかと思った。
それから何分か、痛みに悶えていると扉の開く音がした。
階段を上ってくる音にも気づかずに、身悶えしていた自分を思うとひどく滑稽・・・というか情けない。
慌ててそちらに目を向けると・・・
『うっそでしょ・・・』
本日二度目だ。奈落の底に落とされたのかと思うくらい、深くうなだれたのは。
今回は流石に手すりに頭はぶつけなかった。
目の前には煙草をくわえ、流麗な手つきで火をつけようとしている黒い青年だった。
青年・・・というには、いささか年が行き過ぎてるような気もするが・・・
『・・・』
無言だった。
トシは私の隣に来て、煙草を吸っている。
何を見つめるわけでもなく、ただ青い空に視線をさまよわせていた。
試してみたくなり、下から顔を覗きこんだ。
土「・・・なんだ」
『それはこっちのセリフですけど』
視線をこちらに落とすと、トシは煙を吐き出した。
『・・・捕まえないんですか』
土「誰を」
『・・・頭おかしくなったんですか?』
最後の一言は本気で言った。
どういうことだ、これは。
土「理由がねぇだろ」
『・・・ありますけど』
土「山崎やったのは誰だ」
トシが煙草を足で揉み消す。
それを黙って拾い、傍に会ったごみ入れに捨てた。
『知りませんよそんなこと』
土「そうか」
『思い・・・出したんですか?』
そう尋ねると、めんどくさそうにため息をつかれた。
肯定ととってもいいのだろうか?
土「いや、思い出してねぇ」
『そうですか』
何だこの男は。意味不明、ほんっと意味不明!
『トシ』
土「なんだ」
『いや、やっぱりなんでもない』
話すのがめんどくさくなり、トシを真っ直ぐに見据える。