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【 ハイキュー !!】~空のカタチ~

第28章 オトリの凄さ


『え?···あっ···』

何かを察した紡ちゃんが、軽く口元に手を添えて笑いを誤魔化す。

「清水はオレには手加減皆無だからね。せっかく覚えた英単語がこぼれ落ちたら困るってのに」

『そしたら、私が拾ってあげますよ?』

耐えきれずに笑い出した紡ちゃんが、足元から何かを拾う素振りをする。

『はい、どうぞ?まずはひとつ』

「えっ?もう落としてた??それは大変だ」

オレも笑って受け取り、頭に詰めるフリを見せた。

やっと···

「笑ったね」

『え?』

「さっきまでは、こう···思い詰めた顔しかしてなかったからさ?」

『そんな顔は···でも、よく見てるんですね?スガさん』

見てるよ、いつも。

大地と笑い合う姿も、影山達とふざけっこする姿も。

いつも、見てた。

···今だって、ね。

オレは、紡ちゃんの悲しい過去を知ってる。

だから、これ以上は先に進むことが怖い。

勇気を出して前に進むのが、怖いんだよ。

いつもニコニコして、ふざけてコミュニケーション取ってくる先輩でいる事で、精一杯なんだ。

我ながらヘタレだな···そう思いながら乾いた笑いが漏れる。

「紡ちゃんに、いいものあげるよ。手、出して?」

自分の胸に手を当て、それをそっと包み込んで···紡ちゃんに渡す。

『これは?』

「オレのちっぽけな勇気のカケラだよ。いつか···何かに役立つかもしれないから分けてあげる」

『スガさんの···勇気のカケラ···ありがとうございます、大事にしまって置きますね?』

そう言って紡ちゃんは、自分の胸に手を当ててカケラをしまう仕草を見せてくれた。

いつか、対等になれる日が来たら。

そのカケラの秘密を教えてあげる。

···きっとそれまでは苦難の道が長く長く続くかも知れないけど、ゴールなんてないかも知れないけど。

今は···それでいいんだ。

「さ、家まで送るから行こっか?」

『···はい!』

普段はこんな風に並んで歩くことはない。

だから、そんな貴重な時間は大事にしたいんだ。

だって紡ちゃんは、大地が送ったり影山と帰る事が多いからね。

ゆっくり、ゆっくりとふたりで歩き出す。

隣を見れば、学校を出る時とは違って明るい顔をした紡ちゃんが歩いていた。







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