第28章 オトリの凄さ
渋々···といった感じで隣を歩く紡ちゃんを見て、考える。
やっぱり、さっきの事を気にしてるんだな。
でも多分、あの時の影山は無意識であんな感じになったんだと思うけど。
日向とのやり取りで、前しか見えてない感じだったからなぁ。
きっと紡ちゃんは、お前は黙ってろ!って言われた事でネガティブになってるんだ。
『あの、スガさん?』
ふと立ち止まり、紡ちゃんがオレを見上げる。
『私···って、ホントに部に必要なんでしょうか···』
やっぱり、な。
「どうしてそう思うの?」
『いえ、ちょっと···』
「オレは、凄く必要だと思ってる。でもそれはオレだけじゃない。大地も、清水も···それに旭だってきっと思ってるよ」
部のみんなは、きっと大事な仲間の一人だと思ってる···そう付け加えて、紡ちゃんの頭に手を乗せた。
「紡ちゃんが考えてる事、当ててみようか?」
『え?』
「影山に言われた事、気にしてるんだろ?···どうかな、正解?」
『···正解、です』
やった!当たった!なんてわざとらしくはしゃいで見せて、絶対そうだと思ったんだと打ち明けて···紡ちゃんと向き合う。
「あのね、紡ちゃん。今からオレが言う事を、よく聞いて?」
『···はい』
「あの時の影山はさ、目の前の日向の事で頭の中が一杯で周りが見えてなかったんだよ。だから、紡ちゃんが仲裁に入ろうとした事でさえ、カッとなってて振り払ったんじゃないかな?お前は黙ってろ!なんて言ったのも、多分···本人は気付いてないと思う」
『でも···』
「でも、は禁止」
『···だけど、』
「だけど、も禁止」
でも、の後も。
だけど、の後も。
紡ちゃんが続けて言おうとしてる事は、なんとなく分かる。
「オレは···紡ちゃんにしきれない程の感謝をしてる。西谷も、旭も、紡ちゃんがいろいろしてくれたんだろ?」
『私は別に、何も?』
「内緒にしても、オレは騙されないぞ?」
ツンとおでこを突っついて笑う。
部活が終わる時、西谷があんなに喜んで紡ちゃんに飛び付くとか、旭が穏やかな顔で紡ちゃんを見てたとか···そういうのきっと、紡ちゃんの頑張りがあったからなんだと思う。
「いいよなぁ、西谷は。思いっきり紡ちゃんに抱き着いても、清水から制裁食らわないもんなぁ···」
つい、オレの本音が漏れてしまう。