第28章 オトリの凄さ
私の目を見ながら、しどろもどろに言葉を探す東峰先輩を見て、クスリと笑う。
『東峰先輩、復帰出来て良かったです!私はイマイチ仕事が疎かになりがちな新米マネですけど、どうぞこれからもよろしくお願いしまーす!』
旭「えっ、あ、あぁ、うん···よろしく···それから···」
ありがとう
大きな体からは想像も出来ない位の小さな声で、東峰先輩からありがとうを貰った。
私はそれを聞いて、ちゃんと届いてますよ?と意味合いを込めて、小さく頷いて見せた。
これからは、一人で悩む事も、一人で苦しむ事もしないで下さい。
そんな思いも込めて。
日「旭さんっ!」
近くにいた日向君から声をかけられて、まだ何か言いたそうな顔をしたままの東峰先輩が振り返る。
日「旭さん、オレは···エースじゃないけど、エースの前に道を作る事は出来ます」
さっきとは違う、日向君の表情。
それを見るだけで、何かを掴んで、一歩を踏み出せたんだなと分かる。
日「最強のオトリに···なります!!···影山のトスがないと、出来ないけど···だから、えっと···」
旭「日向···だっけ。エースってさ、大抵ウイングスパイカーのレフトのポジションの人がそう呼ばれるけど···オレとか田中とか」
日「はい···」
旭「3枚ブロックブチ抜けるとか、大事なところでトスが集まるとか、それは確かにエースの役目だけど···あんな風にセッターに言わせられるっていうのも、とんでもなく凄い事だと思うよ」
東峰先輩の言葉に、影山が日向君に言った言葉が浮かぶ。
旭「えっと···だから、あの···なんだ。どんな呼び名でもポジションでも、敵チームに一番恐れられる選手が、一番カッコイイと思わないか?···あのミドルブロッカーやべぇぞ、気をつけろ!とか言われてさ」
日「ぅん···ゥン···」
表情を輝かせて、日向君が大きく何度も頷くのを見て···何だかそれが、誇らしくさえ見える。
旭「負けないからな···」
日「オス!!」
今回の練習試合で、みんなそれぞれ一歩を踏み出せたんだ···
旭「あ、でもオレは···レギュラーに戻して貰えたら、の話だけど」
菅「旭はでっかいクセに、ほんっと気は小さいなぁ」
澤「ちゃんとお前も復活したな、スガ」
ここにも一歩を踏み出せた人が、ひとり···