第27章 小さな太陽と大きな背中
東峰先輩が、恐る恐る、ゆっくりと体育館の入口から姿を見せた。
その瞳は不安と緊張と···みんなの視線を一斉に浴びてしまった怖さで、揺れに揺れていた。
東峰先輩の胸の痛さが伝わってくるようで、私の胸もチクチクと痛み出す。
怖い。
苦しい。
そんな思いを、私は青城の体育館で経験した。
ハジメ先輩と数ヶ月ぶりに会った時、大好きだった人の懐かしさと、サヨナラした時の苦しさで、震えたから。
だけど、そんな苦しさも。
いつの間にか···みんなといる時間で緩和されて。
もう会うことも話すこともないって思ってたハジメ先輩と、普通に話すことも出来るようになった。
だから、大丈夫。
東峰先輩に必要なのは、最初の一歩を踏み出す勇気。
俯いて足元ばかり見ていたら、これから先の大切な未来を気付けない。
東峰先輩?
顔、上げて下さい。
そしたら絶対、光が見えてくるハズですから。
誰も怒ったりしません。
澤村先輩も。
菅原先輩も。
···西谷先輩も。
みんな、東峰先輩をずっと待っているんです。
俯いて立ち止まったまま、まだ、東峰先輩は体育館へ入っては来ない。
東峰先輩、頑張れ!
静かな体育館で、心の中で大きく声をかける。
ゆっくりと東峰先輩が顔を上げ、まっすぐ前を見た。
不安そうな顔で私を···見てる?
こういう時、どうしたらいいんだろう。
どんな顔をすれば···いいんだろう。
ふと、私が不安に駆られている時の事を思い出す。
···そっか、そうだったよね。
いつも1番身近にある穏やかな微笑みを思い出し、私も同じように、笑って見せた。
小さな頃から、どんな時でもそばにある···安心する穏やかな微笑み。
それを東峰先輩へと向けると、少しずつ表情が変わっていって、遂には体育館の中へと入って来てくれた。
ゆっくりと周りを見ると、澤村先輩も、菅原先輩も···それから西谷先輩も、安堵の顔を見せていた。
お帰りなさい、東峰先輩。
今日の全部が終わったら、そう言葉をかけてみよう。
そんな事を思いながら、私は一歩ずつ前に進む東峰先輩の姿を見ていた。