第27章 小さな太陽と大きな背中
誰もいない部室でひとり、モソモソと着替えをする。
誰もいないって事が、静まり返った部屋の中で、衣擦れの音を引き立たせてしまい寂しささえ感じられる。
だけど今は、その寂しい感じが···
逆にオレの気持ちを落ち着かせてくれている気もする。
着替えを終えて荷物をまとめ、ふと、周りを見る。
オレが最後に見た光景と、何も変わっていない。
脱ぎ散らかした西谷の服や、きっと木下達が食べてたであろうお菓子の袋。
キチンとたたまれた縁下の制服に、絶対これは田中だろうな?と思わせる···刺激的な雑誌。
何気なく手に取って、パラパラと開いてみると。
うん、そうだな、田中のだ。
···とっても刺激的な写真がいっぱいだ。
何ヶ所かにドッグイヤーと呼ばれる折り目が付いてるのが気になるけど、きっとそれは、オレには刺激が強すぎるグラビアページ···だろう。
そこはかとなく気になる散らばりをサッと片付けて
、ホントに何も変わってないんだなぁと息を吐く。
何も変わっていない場所。
何も変わっていないメンバー。
変わってしまったのは···オレだけ、なのか。
壁に阻まれて、進めないのは···オレだけか?
『壁に阻まれてって思った時点で・・・負けです』
オレはもう、自分に負けたくはない。
変わってしまったのがオレだったら···もう1度、変わればいい。
そんな風に思える様になったのは、小さな手が背中を押してくれたからだと思う。
もちろん、こんなオレでも待っていてくれるみんながいるからってのもあるけど。
「よし···一歩を踏み出そう」
言い聞かせる様に声に出してみる。
それだけで、一人じゃないって気がして。
もう1度、小さな手に背中を押される気がして···
来た時とは違う、穏やかな気持ちで部室を出た。