第27章 小さな太陽と大きな背中
~東峰side~
学校を出て、すぐの所にある土手っ原に腰を下ろす。
ぼんやりと空を流れて行く雲を眺めながら、ここ数日の事を思い出していた。
澤 ーまだバレーが好きかも知れないなら、戻って来る理由は充分だ ー
大地はああ言っていたけど。
別にバレーが嫌いになったんじゃない。
ただ、ネットの向こう側の景色が、見えなくなったんだ。
···あの試合以来。
だから自然と体育館から足が遠のいた。
自分でも仕方ないとは思う。
なのに何で今頃になって、こんなにも···部活の事が頭を埋め尽くすんだ。
理由は、本当は自分でも分かってる。
出会ったばかりのオレに、自分の辛い過去を打ち明けてまで···一緒に走ろうと言ってくれた。
チームなんだから、ひとりで抱え込むなとも。
苦しさも、楽しさも、みんなで分け合えばいい。
そう言っていた姿が、未だに目に焼き付いている。
影山だって、一人じゃ勝てないのは当たり前だと言っていた。
それも、わかる。
分かるけど、今更どんな顔して体育館に行けばいいんだ。
『東峰先輩は、過去にあった事でスガさんに申し訳ない、西谷先輩に合わせる顔がない。そうやって自分の気持ちを押し込めて・・・前に進めない自分から、逃げてるだけです』
逃げてる、か。
ハハッ···オレ、どうしようもないな。
2つも年下の、あんな小さな女の子が···一生懸命に背中を押そうとしてくれたのに。
いつまでウジウジ引き篭もってるつもりなんだ?
一歩を踏み出せば、何かが変わるんだろうか。
目の前に押し寄せる、高い高い壁の向こう側が···また見えるようになるんだろうか。
空を見上げたまま、ぎゅっと目を閉じる。
まだ···何も見えない、か。
制服に付いた草を払いながら立ち上がり、校舎を振り返る。
「···行くか」
自分に言い聞かせるようにポツリ言い放ち、あの子のいう、大事な最初の一歩を踏み出すための勇気を振り絞った。