第27章 小さな太陽と大きな背中
~烏養繋心side~
武田先生のあとに続いて、烏野高校の門を通る。
···懐かしいなぁ。
あの頃は、毎日ここを通る事が当たり前過ぎて、こんな風に懐かしいと思いながら通る事があるとは、思ってもいなかった。
先生に案内なんかされなくたって、体育館へは行ける。
日差しが暖かい春も。
焼けるような暑さの夏も。
枯葉が風に踊る秋も。
真っ白な雪が舞う冬も。
どの季節も···オレは毎日、通ったんだから。
もう、ここへ足を踏み入れる事はないと思っていたが···
足を止め、体育館へと続く校舎の曲がり角をじっと見つめる。
ホントに良かったのか?
先生の煽りに、勢いで引き受けちまったけど。
コーチなんて大役、オレに出来るのか?
武「烏養君、どうかしましたか?」
校舎の角を曲がる時に振り返り、オレが着いて来ていない事に気付いた先生が小走りで戻って来る。
「いや、なんでもねぇよ」
武「なら、いいんですが」
「あぁ、なんでもねぇ。行こうぜ、先生」
武「はい」
止めた足を、再び前に出す。
成り行きみたいなモンだとは言え、引き受けた以上は音駒と練習試合するまでは面倒見るけどよ。
ジジィが元気なら、この話はオレには来なかっただろう。
そもそもオレは指導者なんて向いてねぇし。
自分がプレーしてぇし。
···いっそ練習に混ざっちまおうか?
なんて、今更ウダウダしたって仕方ねぇ。
限られた期間だ、うちのジジィのようにビシビシシゴいてやっか!
···って、気合いもバッチリ入れたはずなのに。
『あーーーーっ!!ハゲつる繋心?!嘘だ!だってハゲつるじゃない!!』
「ぬわぁっ?!今言ったのは誰だ!堂々と悪口かましやがって!!」
はっ、ハゲつる繋心だと?!
思わぬ所から聞こえてきた叫び声に、一瞬怯む。
だいたい、オレのどこを見てハゲつる繋心とか言いやがったんだ!!
取っ捕まえてシメてやろうかと思えば、小柄な女子マネージャーに向けて、そこかしこから、紡だの、城戸、だのと聞こえて来る。
「紡···?城戸···?」
なんだ?
なんか引っかかる···
ピクつく眉を堪えて、目を凝らして···よーくそいつの顔を拝む。
どこかで見たような?
いや、でもなんか違うような?
城戸···城戸···城戸···
名前は確か、紡?