第27章 小さな太陽と大きな背中
~武田一鉄side~
今日も今日とて···いつものようにコッソリ坂ノ下商店をこっそりと覗く。
もし、お客さんがいたら、僕の話は聞いてさえ貰えないでしょうから。
しかし!
今は···彼はハタキをかけながら鼻歌タイム。
今日こそ!
今日こそは!!
よし、まずはお店に入って···話はそこからです。
···え?コッチ見た?
ー ぬぁぁぁぁ!何してる!! ー
お店のドアがガラリと開けられ、僕が話をしたい本人が飛び出して来る。
「あぁっ、す、すみません烏養君!お客さんがいないか···確認を···」
烏「またコーチの話かよ」
「···はい···」
僕は諦めません、何より···あの子達の為にはちゃんとした指導者が必要だから。
烏「オレは今でもプレーするのが好きなんだ。町内にチームだって作ってる。コーチなんてやったら、ムズムズしそうで嫌だ」
「···は、ぁ···」
大きなため息をつきながら、烏養君は横を向いてしまう。
烏「それに、あの体育館に行きたくない」
体育館に行きたくない?って、どういう···
「あ···な、何か嫌な思い出でも?」
それだったら、少しは僕にも少しは理解できる。
烏「その逆だ。あそこには、青春が詰まってる」
「じゃあ、何で···」
烏「あの体育館とか部室が昔と変わらなくても、オレがあそこに戻る事は絶対に出来ない。あの限られた時間の、独特な感じ。あの場所のあの時間にしかない、空気みたいな···」
僕には残念ながら、運動部の経験なんてない。
だから、烏養君がいう···体育会系の何たるかって言うのは、正直、よく分からない。
けど···
「ノスタルジーですかぁ···イイなぁ···」
烏「くっ···うるせーなぁ!だから戻りたくない!」
そんな頑なに言わなくても···
仕方ない、最後の手段を使ってみるしか。
「音駒高校が来るとしても?」
烏「う···」
「ゴールデンウィーク最終日、うちと5年ぶりの練習試合です」
烏「な···んで···今···」
おっと···?
もしかして食いついてる?!
「向こうは烏養監督と親交の深かった猫又監督が、最近復帰されたそうです。それを聞いて、練習試合をお願いしてみたんです。烏養君達の時代は、一番、音駒との交流が深かった時期じゃないですか?」
烏「あぁ···」