第27章 小さな太陽と大きな背中
慧太はそう言って、それ以上は小さなグラスの事は口に出さなかった。
慧「で?今日は何を落ちてんだ?」
「落ちてない」
慧「落ちてんだろ」
「落ちてないから」
慧「···おまじない」
「···うるさい」
慧太の追求に煽られ、グラスの中身を飲み干す。
グラスをコトリと置けば、慧太がニヤけるのが視界に入る。
慧「どうせアレだろ?自分の知らない所で紡が~とかだろ?そんなん平気だろうよ。むしろ、紡だって年頃なんだ、彼氏の一人や二人くらいドーンと構えとけや」
「だから、そうじゃないから」
喉の奥でクツクツと笑ながら、慧太がグラスにワインを注ぐ。
慧「飯作ってる時よ、紡が言ってたんだけどな?」
「···なに?」
慧「また影山を晩飯に誘ってもいいか?って」
影山君を?
別にそんなこと改まって許可を得なくても。
「それは構わないだろ?今までだって何度かあるんだし」
注がれたグラスに口を付けながら、そう返してみる。
慧「まぁ、そうだけどよ。影山が言ってたらしいぜ?紡と一緒に作る飯が食べたいんだって」
ゴフッと音をさせ、ワインが口元から流れ出る。
紡と一緒に作る食事?!
なんだその、小さなプロポーズみたいな言葉は!
「どど、どういう意味だろうね、ソレは」
噎せながら聞けば特に意味はないらしく、ただ単に会話の成り行きらしい。
灯台もと暗し、という事でもないけど···さっきの紡の爆弾カミングアウトで影山君の存在を忘れてたよ。
つくづく、今日は驚かされる日だ。
「いいんじゃない?うちはいつも3人だから、たまには賑やかなのも」
慧「んじゃ、オレから提案。いっその事バレー部全員呼んで久々にバーベキューでもやろうぜ?庭でやりゃ全員で食えるだろ?食うのに飽きたら人数いるし、みんなでバレーやろうぜ!」
子供かお前は!と突っ込みたくなる気持ちを押さえて、いい案だねと答えた。
俺も慧太も賑やかなのは嫌いじゃない。
だから、ほろ酔いになりながら何をどれだけ用意するとか、いつならいいかなどを話している内に段々と盛り上がってしまう。
まだ来ぬイベントに心弾ませているうちに、空が白み始めている事さえ、気付かなかった。