第27章 小さな太陽と大きな背中
そんなの、とうの昔から分かってるけど。
何となくモヤモヤとスッキリしない。
親バカならず、兄バカだな。
乾いた笑いを零し、静かに窓を閉めた。
慧「桜太、起きてんだろ?」
ドアをノックしながら慧太が声をかけてくる。
「入れば?」
軽く返事をすると、少しばかり開けられたドアから慧太が顔を出す。
慧「どうせモヤって寝れないんだろ?ちょっと付き合えよ」
「どうせって何だよ。俺は研究資料を作ってたんだよ」
それは、本当。
ただ、進みが遅かっただけ。
慧「へぇ。じゃあ仕方ねぇから、オレひとりで···」
「付き合うよ、片付けたら下行くから」
慧「おぅ、早く来いよ?」
「分かってるって」
本格的に、今日はここまでだな。
慧太のちょっと付き合えよって言うのは、時計の針がテッペン過ぎるまで続くからな。
それも狙って、俺が次の日休みの時が多い。
パソコンの電源を落とし、広げた資料をひとつにまとめ片付けてリビングへと降りた。
「ワイン?」
慧「そ、フルボディの良さそうなヤツ貢がれたからさ?」
貢がれた?
その言葉に、過去の慧太の素行を思い出し眉を寄せた。
慧「言っとくけど、今は心も体も清いぜ?」
「当たり前だろ」
慧「店の客からの土産だよ」
「最初からそう言えって、バカ慧太」
ペチンと頭に制裁をお見舞し、いつものテーブルセットに座った。
たまにしか出さないグラスを慧太が用意し、2人向かい合って傾け合う。
「いい味だね。抜けて行く香りも芳醇だ」
慧「だろ?」
そうだ···
「ねぇ慧太、小さなグラスでいいから少し分けて貰える?」
慧「小さいグラス?同じのじゃなくていいのか?」
サイドボードの扉を開けながら、振り返って言う。
「あまり強くはないからね。小さいので平気」
慧太が小さなグラスにワインを注ぎ、俺に手渡して来る。
慧「どうするんだ、それ」
「美味しいから、お裾分けのお裾分けだよ」
軽く笑って、ウッドデッキへ出て···その柵の上にグラスを置いた。
たまには···いいだろ?
あんまり飲める方じゃなかったけど、少しだけなら、ね?
軽く空を仰ぎ、頬を撫でる風を感じながらリビングへと戻った。
慧「粋な事しちゃって」
「···うるさい」
慧「でもきっと、お前の気持ちは伝わってるさ」