第27章 小さな太陽と大きな背中
~桜太side~
思うように動かない指と格闘しながら、小児科医学の研究資料を作るパソコンの画面から目を外す。
···ダメだ、集中出来ない。
提出期限はまだまだ先だし、今夜はもう、諦めるかな。
夕飯前のひとときを思い出し、フッと息を吐く。
部屋の空気を入れ替える為に窓を開け、その淵に腰掛ける。
俺達と一緒に通い出したバレーボールクラブで、紡が初めて試合に出る時から何度となくかけてきた、特製のおまじない。
まさかそれを···紡が彼らにしてるとは。
しかも紡本人は何らためらいもなくってところが、まだ俺を救ってくれる気がする。
日向君や山口君は、別に変な子ではないし。
むしろ素直でいい子だとは···思う。
だけど、何より大問題なのは···2人とも年頃の男の子じゃないか。
あの位の年頃といえば、グラビア雑誌をこっそり回し読みしたり、誰々の胸が大きいとか、短くした制服のスカートからチラッと見えたとか、そんな事で一喜一憂する年頃だろ?
俺だって···あ、いや。
慧太は年中行事だったからね、そういう事は。
···まさかとは思いたいけど。
他の面子には···そんな事は、ないよな?
か、影山君···とか?!
それから澤村君とか?!
そう言えば、いつの間にか澤村君と紡はお互いを名前呼びするようになっていたっけ。
それは別に、運動部ではあるあるな事だ、けど?
えっ?!
ちょっと待って?!
まさか?!
えっ?!
いや···いやいやいやいやいや···ハハッ···
ま···まさか、ね?!
でも、よくよく考えれば思い当たる節も···いや!
ない!···事にする。
窓枠に凭れ、夜空を見上げる。
俺は、紡の育て方···間違ってるのか?
教育方針、考え直した方がいいのか?
いや、答えは否、だ。
紡には無邪気に、素直に、そのまま育って欲しい。
もちろん、道理から外れそうになったら軌道修正はするけどね。
ありのままの紡で、人との繋がりを大事に···
そういう大人になって欲しいって思ったから、あの子に付けた名前だ。
俺と、それから慧太で案を出して。
父さんと母さんと4人で考えて名付けた。
いつかあの子が出会いを紡ぐ未来には、俺でも慧太でも、父さん達でもない···全てを捨てても無条件で紡を守れる誰かが現れる。