第10章 烏野高校男子バレー部
そう言ったオレに対しての返答は、驚くべきものだった。
『岩泉先輩とは別れた』
は?
はぁぁぁぁ!?
思わず大声で叫びそうになるのを堪えると、口いっぱいに詰め込んでいたパンで喉をつまらせる。
オレを見て慌てて牛乳を手渡す城戸に命を救われ、落ち着きを取り戻す。
正確には落ち着いてなんかいられなかったが。
なんだよ別れたって。
オレは城戸をかっさらったのが岩泉さんだから諦めたんだ。
中学の時はバレー部男女は体育館半分ずつだったから、毎日の様に同じ空間にいた。
休憩時間になるとネット越しに談笑したり、水筒分けて貰ったりしていた。
ある時リベロだった城戸が急にセッターやる事になり、どういう経緯か分かんねぇけど及川さんがよく城戸に教えていた。
及川さんはオレには絶対そんな事はしなかったのに、なんで城戸に?
女って言うだけで、及川さんに指導して貰える城戸が羨ましかった・・・ハズだった。
なのに。
ある時から及川さんがベタベタベタベタ城戸に絡み、仲良くしてるのを見て、段々ムカついている自分がいた。
城戸に触んな。
城戸にくっつくな。
城戸と会話すんな。
気がつくと、そのムカつきは及川さんだけじゃなく、国見や金田一なんかにも・・・だ。
イライラしたり、ムカついたりしてるのに帰り道は城戸と途中まで一緒だったから、いつの間にかイライラする事もなくなっていた。
城戸が嬉しそうにしてるとオレも嬉しくなり、落ち込んでればオレも一緒に悩んだり・・・そんな毎日を過ごしているうちに、ひとつの結果に辿り着いた。
オレは城戸の事が好きなんだ・・・。
しかし、それに気がついた途端。
城戸が岩泉さんと付き合い出してしまった。
城戸と付き合ったのが岩泉さんで良かった。
及川さんじゃなくて良かった。
オレを泥沼から救いあげた、せめてもの事実だった。
記憶のトビラを閉めて、オレは城戸に聞いた。
「バレーは好きか?」
城戸の答えは曖昧だった。
嫌いと答えないだけいいと思った。
オレの事をサラッと王様呼ばわりする城戸に、
「お子様、教室戻るぞ」
と、声をかけ歩き出す。
『小さいからってお子様って呼ばないで!』
そう言い返す城戸に、王様呼ばわりするからだ!と言って笑い返す。
「置いてくぞ、お子様!」
オレはもう1度そう言って笑った。