第26章 交差する想い
『ん~!甘くて美味しい!』
その嬉しそうな笑顔は、俺がここに来る前に想像していた笑顔そのまんまで、俺はつい口元が緩むのを押さえきれなかった。
「紡?夕飯の時間まであと少しなんだから、たくさん食べたらダメだからね?」
『えぇ・・・』
残念がる顔も俺の予想通りで、また笑いが浮かぶ。
小さな頃から、ずっと見守って来た大事な妹が、いつの日か俺達の元から離れて行ってしまう未来を思うと、チクリと胸が痛む。
それはまだ、いつなのかは・・・分からないけど。
俺達の代わりに紡を守ってくれる誰かが現れるまでは、いくらでも甘えてくれていいから。
出来ればそんな日は、なるべく少しでも・・・遅ければいいのになんて、紡には言えないけど。
「ところで、紡?今日って誰かここへ来たの?」
さっきのメモの事を思い出し、さり気なく聞いてみる。
『今日?来たけど・・・なんで?』
幾つめかの苺を口に入れながら、紡が不思議そうに俺を見る。
「さっき課題を見ようとしたら、このメモが挟まっていて・・・紡の字じゃないしって思ったから」
メモを指差して言うと、紡が嬉しそうに笑った。
『今日、縁下先輩がここへ来てくれて教えてくれたの。縁下先輩のおじいさんが今朝方入院したから様子を見に来た帰りだって言ってた』
「そうなんだ?それで、おじいさんは大丈夫だったのかな?」
『縁下先輩が、ギックリ腰だったって言ってた。それで、病院がここだったから澤村先輩が私の所にも顔出して、話し相手して来て?って言ってたんだって』
「そっか、澤村君が。じゃあその時に勉強見て貰ったんだね」
『課題が終わって退屈してたって言ったら、間違い探ししてあげるよ?って。それで1箇所変な所があったから、解き方とか・・・まぁ、後はお話したり、いろいろ、かな』
いろいろ?って、なんだろう。
もしかして、いや、だけど・・・
・・・聞けない。
慧「お前の彼氏か?」
「ちょっと慧太?!」
俺が聞くに聞けないと思っていた矢先に、そんなサラッと!
『・・・違うけど。っていうか、そんな事いきなり聞くとか、慧太にぃってデリカシーの欠片もない』
慧「・・・だとよ、桜太?」
「えっ?な、なんで俺に振るんだよ」
慧「別にぃ?オレはこの身を犠牲にしたってのに、桜太は冷たいねぇ・・・」
「あはは・・・何の事だろう」
