第25章 追憶
桜「もちろんそれは大前提だけど・・・いま思えば、母さんはつわりが酷かったんだろうね。食事もまともに食べれなくて、水さえ吐いたり。そんな母さんの姿を見て、何とか食べて欲しくて、その時に初めて慧太とキッチンに立ったんだ」
私が、お腹にいたから具合いが悪くなったんだ・・・
つわり・・・という物がどんな物かは、テレビドラマとかでしか見たことないから私には分からないけど・・・
でも、命を育てるって、お母さんも命懸けで・・・頑張ってくれたんだ・・・
桜「最初は酷かったよ?お粥みたいなご飯や生焼けのハンバーグとか。今でも笑っちゃうくらい。あと、慧太は料理より洗濯の方が向いてるみたいで、その頃からやってたよ。ちゃんと食べられるのが作れる様になったのは、大分後かな」
桜太にぃと慧太にぃが、家事に関して凄いのは、その頃からの下積みがあったからなんだ。
それも、私をお腹の中で大事に育ててくれていたお母さんのために・・・
桜「俺達はそうやって、いろんな事を手伝ったりしながら紡が産まれるのを待ってたんだ。だからその時からずっーと、紡は俺達の宝物で、癒しなんだよ?」
『なんか、ちょっと感動・・・』
桜「えぇ・・・感動したのは、ちょっとだけ?」
『ん~・・・内緒!』
大袈裟に残念がる桜太にぃを見て、私はそう返した。
ー どんな事があっても、大事にする事。何が起きても、守り抜く事 ー
その約束をずっと守りながら、いつも私の側にいてくれたんだ。
・・・守り抜く事?
『桜太にぃ!ちょっとお腹見せて!!』
桜「えっ?!あ、紡?!こらっ!捲るな!!」
慌てる桜太にぃのシャツを掴み、容赦なく捲る。
確か、あの場所は・・・
・・・あった。
桜太にぃの脇腹に、大きく痛々しい傷跡が。
大人になってもこれだけ傷跡が残ってるって事は、あの時は相当なダメージだったに違いない。
シャツを捲り上げたまま、その傷跡に触れてみた。
桜「紡、擽ったいからやめなさい」
『まだ・・・痛い?』
傷跡を見つめたまま、小さく問いかけてみる。
桜「今はもう、痛くないよ・・・紡、これの事、思い出しちゃったんだね・・・」
捲りあげたシャツを正しながら、桜太にぃが呟いた。
『思い出したっていうか・・・見て来た』
桜「見て来た?」
私は桜太にぃに向けて頷き、また膝を抱えた。