第25章 追憶
桜太にぃと慧太にぃは、北風と太陽みたいな感じだと思う。
もちろん太陽は桜太にぃで、北風の方が慧太にぃだけど。
あの物語と少し違うのは・・・
太陽の桜太にぃは、凍えてる私に優しい日差しを向けながら、大丈夫・・・もう少し前に進んでご覧?と背中を押してくれる。
そして。
北風の慧太にぃは、立ち止まる私に強い風を送って、いつまでもそこにいるんじゃない!と、背中を押してくれる。
だから、どっちも大好きで。
どっちにも甘えていたい。
早く大人になってしまいたい自分と・・・
まだまだ誰かに甘えていたい自分。
それはどっちも私自信で。
・・・大人になるって、難しい。
もし今、どちらかひとつを選ばなきゃいけないとしたら、私は・・・
桜「・・・やべっ、ガチ寝した・・・」
もぞりと動きながら、桜太にぃが起き上がる。
『桜太にぃ、今のって何か・・慧太にぃみたいな言い方だったよ』
堪えきれずに笑い出すと、桜太にぃはハッと驚いて私を振り返った。
桜「起きてたのか・・・」
『少し前にね。桜太にぃは、昨日は帰れなかったんだ?』
私が聞くと、まだ眠そうな目を擦りながら、桜太にぃは、まぁね・・・と返した。
普段は家でもこんな姿を見せないから、疲れきった桜太にぃを見て少し戸惑う。
『大変な仕事だって分かってたつもりだったけど・・・ホントにつもりだったんだ・・・』
零れた言葉に、桜太にぃが微笑み返す。
桜「俺は自分で考え抜いてこの仕事を選んだから、大丈夫。大変だって事は、父さんや母さんを見て分かってたからね」
今までは何も知らずに家で甘え放題だったけど、大変な仕事をこなす姿を目の当たりにしてしまうと・・・
甘えてばっかりも・・・いられないよね・・・
やっぱりもっと、今より大人にならないと。
桜「紡、先に言っとくけど・・・甘えるのやめようとか、思わなくていいからね」
『でも、だって・・・』
疲れてる時ほど、そういうのは鬱陶しいとか・・・思っちゃうんじゃ・・・?
桜「紡はね、俺と慧太の癒しなんだよ」
『桜太にぃ、面と向かって恥ずかしいこと言わないでよ・・・』
いきなり何を言い出すんだと、少し慌てながら言って目を逸らした。
桜「まぁいいから聞いて」
クスクスと笑いながら言われ、気恥しい気持ちを隠す様に軽く膝を抱えた。