第25章 追憶
目が覚めると・・・自分の部屋とは違う空気に触れて、やっぱり病院で一晩過ごしたんだと実感する。
昨夜は面会時間ギリギリまで慧太にぃがいてくれて、桜太にぃもその時間に合わせて一緒にいてくれた。
桜太にぃが帰り支度をしたタイミングで、多重事故の為に救急搬送が立て続けて入るって聞かされた桜太にぃは、人手は多い方がって、また・・・白衣を着て処置室に入って行ったんだよね。
慧太にぃは私に、一緒にいてやれなくてゴメンな?って言いながら、1人で帰ってしまって。
2人の後ろ姿を見送りながら、少し寂しかったけど、それは内緒の話。
扉1枚向こうに桜太にぃがいるって分かっていても。
ケガをした人の声や、意識が途切れそうな人に懸命に言葉をかけ続ける桜太にぃの声や、子供の泣き声が聞こえて来て、私は毛布に潜り込んで丸まってた。
その後少しして、私がいた場所を開けて欲しいって言われて。
看護主任に連れて来られたのが・・・この病室、なんだけど。
私は政治家か?なんて思わせるような・・・個室。
シャワールームもトイレも個室の中にあって、便利っぽいんだけど・・・朝の診察が終わったら帰るんだから使う事はないだろうなと笑った。
空調の風で揺れるカーテンの隙間から、極々うっすらと光が見える。
・・・今、何時なんだろう。
枕元に置いたスマホを見ようと体の向きを変えようとすると、私の左半身が何かにつっかえて止まった。
頭を持ち上げて、そっと覗いてみる。
桜太にぃ?!
そこには白衣を着たままの桜太にぃが、ベッドサイドの椅子に腰掛けながら、ベッドに突っ伏して眠っていた。
昨日、帰らなかったんだ・・・
正確には、帰れなかった、の方が正しいのかも知れない。
私は手のひらを上に向け、その手に被せられている桜太にぃの手を、そっと握り返した。
暖かい・・・
小さい時はどこに行くにも、この手に繋がられて歩いてた。
でも、それぞれが大きくなって。
いつの間にか手を引かれて歩く事なんてなくなってたなぁ。
だけど、今は・・・
その代わりに、立ち止まる私の背中に手を添えて・・・そっと押してくれる。
それは慧太にぃも同じなんだけど。
慧太にぃのは・・・ちょっと違うんだよね。
押してくれるっていうか、背中を叩くっていうか。
でも、それはそれで嬉しいと思う。