第25章 追憶
及川がどんな意味を含めて俺に言ったのかは分からねぇ。
けど、そう言い放たれて、何も感じなかったワケでもねぇ。
ロッカーの扉を閉めて、何度目かのため息を吐く。
「及川、用事思い出したから先に帰る。松川、部室の鍵・・・頼む」
松「あいよ」
及「あ、ちょっと岩ちゃん?」
及川が何か言ってるのを、聞こえないフリをして部室を出た。
ひとり黙々と歩きながら、及川の言葉を思い返していた。
“ オレとの大事な約束、破ったよ ”
多分あれは、及川が言いたかった事は。
・・・紡の事だ。
“ 大事な宝物は、絶対に手放しちゃダメだからね? ”
しつけーよ!ってくらい、及川から何度も言われてた。
俺はその度に、分かってんよ!と返事をしてたのに、結局は・・・
この事に関しては、及川からどれだけ責められても、言い訳は出来ねぇ。
なんでそうなったか、その理由も及川には言わねぇ。
・・・言えばまた、及川は騒ぐからな。
それにもう、やり直すには遅ぇんだ。
紡は、歩き始めてた。
ちゃんと、自分の足で。
もう、肩を並べて歩く事は・・・俺には許されねぇんだ。
それを今日、嫌と言うほど目の当たりにした。
ふと立ち止まり、空を見上げれば・・・
欠けた月が夜空を照らしている。
満月にはほど遠い、月。
・・・まるで、俺の心と同じだな。
ただ、違うのは。
月は、また夜が来れば満ちて行く。
俺の心はもう・・・満ちることは、ない。
「ホント、痛ぇな・・・」
漏らした言葉が、何だか身に染みて・・・胸を締めつけていく。
おもむろに胸を押さえ、ひとつ、息を吐く。
「・・・それも、悪くねぇ、か」
月を見上げたまま、そっと目を閉じる。
大きく息を吸い込み、それを吐き出すと、俺はポケットからスマホを取り出した。
電話・・・してみるか・・・
アドレス帳を指で送り、暫く連絡なんかしていない相手の名前で指を止めた。
いきなり電話なんかしたら、驚かれるだろうか。
5コール鳴らして出なければ、諦めよう。
少し迷いながら、通話ボタンに指を移動させる。
2コール、3コールと呼出音が鳴る。
遂に5コール目が鳴って諦めかけた時・・・
ー ・・・はい ー
出た・・・
「・・・俺だ、岩泉・・・」