第25章 追憶
「安心しろ、及川。テメェがセッターとして使いモンにならなくなったら・・・」
及「な、なった・・・ら?」
「矢巾がいる」
矢「えっ?!」
及「えぇっ?!そっち?!」
「何で矢巾が驚く?お前だってウチのセッターだろ」
言いながら、締めたばかりのネクタイを緩め、及川に見える位置で拳を作って見せる。
及「えっ、国、国見ちゃん助けて!!」
お前、本気で後輩に助けを求めんなよ。
国見がチラリと視線を寄越すが、俺は無言で首を振った。
国「お先に失礼しまーす。金田一、肉まんなくなるから早くしろ」
及「オレより肉まん?!マジ?国見ちゃーん?!あ、金田一まで帰るの?!」
金「お、お先ッス!!」
「おう、気をつけて帰れよ」
金田一がドアを閉め、部室内が静まり返る。
「さて。これでお前が助けを呼ぶヤツもいない」
1歩ずつ、足音を立てずに及川に近付いていく。
及「岩ちゃん、は、話し合おう!ね?ね?!」
「聞こえねぇな。松川、花巻、ぜってぇ離すんじゃねぇぞ?」
俺の言葉に2人が頷く。
「及川、歯ァ食いしばれ!!」
最後の1歩を大きく踏み込み、振り上げた拳を思い切り前に突き出す。
及「岩ちゃーん!!」
咄嗟に目を瞑った及川の顔の横を通過して、ロッカーに大きな音を立てて手を当てる。
「・・・・・・・・・なぁんてな?」
及「い・・・岩、ちゃん?」
うっすらと涙目を見せる及川の頭を、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「バカが。俺が本気で殴るとでも思ったのか?お前じゃあるまいし」
お前には一度、ガチで殴られてっからな・・・
及「岩ちゃん、冗談キツイよ・・・オレ、高3にもなってチビるかと思った・・・てか、腰は抜けた・・・」
花「ばーか!岩泉がそんな事する訳ネェだろ!」
松「そうか?俺は2発位はやってもいいんじゃねーかと密かに思ってたぞ?」
及川を掴んでいた手を離しながら、2人は笑い出す。
「ま、俺も間違えて1発ぐらい殴ってもいいと思ったケドよ」
及「岩ちゃん?!」
ニヤリと笑ってやりながら、床にへたり込む及川を横目に、ロッカーを開けてネクタイを締め直す。
松「及川も悪リィぞ?最後のアレ、何だ?」
花「そうそう、あれはオレも酷いと思ったぜ?」
あぁ、意気地なし・・・ってやつか。
今頃になって、その言葉がグサリと突き刺さる。