第25章 追憶
病院内に自販機もあるけど、キンキンに冷やされた物より、常温の方がこういう時はいいだろう。
いくつかの飲料と、紡が食べそうな甘いものをカゴに入れて会計を済ませた。
助手席に買い物袋を乗せ、車を走らせる。
信号待ちでチラリと荷物を見て、少し買い過ぎたか?とも思うが・・・
ま、食いしん坊の紡の事だ。
多過ぎる位で丁度いいだろ、と笑いを零す。
スーパーから病院迄は、渋滞にハマることもなく容易に着いた。
さて、我が家の姫さんは、どうしてるかな。
さっき来た時よりも足取りを軽くして、紡がいる部屋の前に着いた。
・・・?
話し声?
桜太と、紡か。
『前よりずっとずっと、遠くに行っちゃった感じがして・・・私も、前に進まなきゃ行けないんだって、思った・・・』
桜「紡は、ちゃんと前に進めてるよ?とってもゆっくりだけど、自分の足で1歩ずつ進んでる 。それに、このメッセージ見てごらん?」
何の話をしてるんだ?
悪い事だとは自覚しながらも、その場に足を止めてしまう。
『武田先生の・・・メッセージ・・・』
桜「これってさ、きっと澤村君達の事なんじゃないかな?もちろん、彼だけじゃなくて、バレー部全員の事だと思うよ?先生も含めてね」
メッセージ?
あぁ、さっき影山達が書いてたやつか。
病院から出る間際に、影山が桜太にマジック貸してくれって言い出して、何すんだろうと桜太と首を傾げたやつな。
影山が書き始めたのを見て、他の連中も、先生までもが同じ事をし始めた。
桜「よし、元気出たね?俺も、変な話を持ち出して悪かった。なんか・・・なんだろうなぁ・・・ちょっと、余裕、なくしてたかもな」
『余裕って?』
桜「ん?・・・内緒。それからさ、さっきの事だけど、無理に忘れたりしないでいいと思うよ。良いことも悪い事も、思い出は思い出。それは紡の中に大切にしまっておけばいいんだから、ね?」
桜太が余裕なくすって?
いったい、どういう事だ?
いつもの桜太なら、大概は何があってもスマートにこなしてるだろ?
今日の紡のは・・・例外だけどよ。
『うん・・・そうする。でも私、もったいない星人だから、少しずつになるかも』
桜「さて、点滴もいい感じで終わったから、新しいものに付け替えますかね」
『えっ?!まだあるの?!』
シリアスな会話から、一転して空気が変わった。