第25章 追憶
『ダメだって?』
桜「頭部外傷の疑いで搬送されたけど、検査は異常なしだから大丈夫だって。ただ、食事の手配は明日の朝からになってるから、お腹いっぱいに食べなければ市販の物を食べてもいいって。よかったね?」
市販の・・・って言われても、買いに行けないしなぁ。
ポツリと呟くと、桜太にぃが笑い出す。
桜「いま慧太が影山君を送ってるから、こっち戻る時に何か用意して貰おうか?」
『大丈夫。とりあえずは、みんなからの差し入れを味わう事にする・・・わぁ、何か久しぶりに飲むなぁコレ。大会の時は持ち物に必ず入れてあったし』
適当にひとつを手に取り、キャップを開けようと持ち上げた。
あれ?
何か書いてある?
よく見てみると、それぞれに何かが書かれていて・・・
“ 待ってる ”
“ 明日からのドリンク、誰に頼めばいい? ”
“ 塩味の卵焼き、毎日一緒に食べよう ”
“ 周りをよく見て下さい。背中を貸してくれる人は、あなたにはたくさんいます ”
“ 泣くな、ブス ”
名前なんかなくて、ひと言ずつのメッセージだけが書いてあるけど・・・
名前なんかなくても、誰がどれを書いたのかなんて・・・分かる。
澤村先輩?
待ってるって、そんなに期待されても私は中途半端な出来損ないですよ?
月島君にとって、私の存在価値はドリンク作りだけですか・・・
山口君ちの卵焼き、初めて食べる味で美味しかった。
毎日一緒に食べようって、まるでプロポーズみたいだよ。
それから、武田先生。
もう、メッセージが武田先生っぽい。
武田先生にも・・・寄り掛かっていいですか?
あと、影山。
・・・影山は、1回ぶっ飛ばしたい。
本当に。
1度でいいから。
ベッドが少し沈み、桜太にぃがそこに腰掛けたのが分かる。
桜「紡が何を思い悩んでるのか、何となく俺には分かるけど。紡が思う通りに、してみたらどうかな?」
ツン・・・と、澤村先輩のメッセージをつつきながら、桜太にぃは足を組み替えた。
桜「俺はさ?紡がバレーから離れたいって言った時、賛成もしなかったけど、反対もしなかった。だけど、本当は俺の気持ちの中ではバレー続けてくれたらな・・・ってのはずっと思ってた」
『どうして?』
桜太にぃを見上げ、その答えを静かに待った。
桜「紡が、他の何よりも一生懸命にやってたから、かな?」