第25章 追憶
山「城戸さんは、さ。明日からは、もう・・・ホントにやめちゃうの?」
澤「山口、それは今は・・・」
澤村先輩が山口君の腕を引き、続きを話すのを止めた。
『これからの事は、これからゆっくり考える事にする。とりあえず今夜は帰れないみたいだし。考える時間は、たくさんありそうだから。でも、少しの間だったけど、楽しかった・・・ありがとう』
山「なんでこれが最後みたいな言い方・・・オレは、嫌だよ」
鼻を啜りながら、山口君が俯く。
『山口君、ちょっとこっちまで来て』
私が言うままに、山口君が歩み寄り、手が届く位置まで来る。
私はそっと抱き寄せて、背中をさすった。
『山口君は大丈夫。ちゃんと出来る。山口君にしか出来ない事を見つけて頑張って。ね?』
何も言葉は返ってこないけど、ポンポンと背中をたたいて解放した。
武「では、面会時間の限りもありますし。僕達はそろそろ帰りましょうか」
武田先生の言葉で、澤村先輩も頷き、他のメンバーに声をかけ帰り支度を始めた。
桜「本当に紡がお世話になりました。明日の診断の結果が分かり次第、武田先生宛にご連絡します」
慧「ありがとうございました」
桜太にぃ達が頭を下げ、私も一緒に頭を下げた。
それから、みんなを入口まで送ってくると言って桜太にぃと慧太にぃがみんなと一緒に部屋から出て行った。
急に訪れる静けさに、寂しさが込み上げて来る。
ベッドの柵に寄りかかり、1滴ずつ丁寧に落ちる点滴を眺めては、ボンヤリと今日の事を考えていた。
凄くたくさんの出来事が・・・詰め込まれた日だったな・・・
数々の出来事を思い出しながら、最後に山口君の言葉が浮かび上がる。
ーこれが最後みたいな言い方、オレは嫌だよ ー
山口君らしい、素直で真っ直ぐな言葉・・・
いつも曖昧に笑うしか出来なかった私とは違う。
私みたいな、中途半端な人間がこれ以上みんなと一緒にいてもいいんだろうか。
それとも、潔く約束は約束だからと・・・離れた方が・・・
澤村先輩には、自分の気持ちに区切りを付けたい、マネージャーとしてやって行けるのかっていう準備期間が欲しいからって理由で今日迄の約束を取りつけた。
でも・・・本当の意味は・・・そこじゃない。
自分自身が青城に出向いて、岩泉先輩に会って。
平常心を保っていられるか・・・だったんだ。