第25章 追憶
~澤村side~
静かな通路の奥から、規則正しい足音が聞こえてくる。
それが段々と俺達のいる方へ近づいて来るのが分かり、振り返った。
桜「慧太、待たせてごめん。それに、皆さんも」
前に家を訪ねた時のラフな格好と、山口が怪我をした時に体育館へ来てくれた時の格好しか見ていなかったせいか、丈が長く真っ白な白衣を羽織る桜太さんの姿を見て、改めて桜太さんは医師なんだな・・・と実感する。
桜「澤村君、そんなに見つめられると・・・俺に穴が開くよ?」
穏やかに微笑みながら言われて、なんかすみません、と思わず口に出した。
武「あの、先程もお伝えしましたが・・・今回は、」
桜「武田先生、それは違いますよ。紡にも言われました。自分の咄嗟の判断で起きた事だ、誰も悪くない、って」
武「ですが・・・」
山「オレのせいなんです!・・・オレを、庇ったから・・・」
山口・・・
両手を握り締め、それを震わせて、絞り出すように山口が言った。
桜「山口君」
そう声をかけながら、桜太さんが握りしめた山口の手指を解いていく。
桜「打撲、だったんだってね?紡から聞いたよ。せっかくそれで済んでるのに、悪化させる様な力みは・・・賛成出来ないかな」
あくまでも穏やかに、そして静かに桜太さんは続けた。
桜「紡から山口君に伝言があるんだけど、聞いてくれる?」
そう言う桜太さんに、山口は無言で頷いた。
桜「紡がね、キミに何もなくて良かった、って。たくさん練習出来るから頑張ってね?って。それから、山口君がいつまでも自分のせいだって落ち込んでたら・・・もう口聞かないから!絶交だから!・・・だって。どうする?」
山「ぜ、絶交・・・」
慧「紡の口聞かないからってのは、結構キツイぞ~?オレも前に丸3日もそれやられてなぁ・・・」
そんなに口聞いて貰えないほど、慧太さんは紡に何をしたんだ?
桜「あれは慧太が深酔いし過ぎて、間違えて紡のベッドに入り込んだからだろう」
「「えっ?!」」
慧「いや、朝っぱらからの紡の悲鳴で目が覚めて、耳がキーンとしたのを覚えてるよ」
そうじゃなくて!!
紡のベッドに?!
そ、それは丸3日の制裁で済んで・・・良かったんじゃ?
慧「な~んか、暖かいと思ったんだよな。体温高いとか、やっぱアイツはまだまだお子様だな」
確かに、暖かいってのは分かる。