第25章 追憶
ー 退屈そうですな ー
カルテから顔を上げた先生が、私を見てニコリと笑う。
『あ、そんなことは・・・なんか、すみません。欠伸とかして・・・』
ー いや、いいさ。この後たくさん寝て貰うから、その間はゆっくり休むといい ー
寝てもらうから?
さっきも、お預かり、とか言ってたよね?
『あの!あの、私って帰ったらダメなんですか?痛いのは足だけなんですけど』
ー 本当に足だけなら、すぐ帰れるんだけどねぇ。頭を打ってるようだし、これからいろいろと検査をして貰って、最低でも今夜はここにお泊まりだね ー
『検査・・・』
ー それに、このカルテにも城戸先生の初見として必要な検査が書いてある。これを見て、問診してみて、検査は必要だと私も判断した。城戸先生は、まだまだ駆け出しの若い先生だと言えど、ちゃんとした優秀な医師だ。だから検査はして貰うよ ー
縁側に座ってお茶でも飲みながら話すように、のんびりとした口調で先生は言った。
すぐに帰れると思っていた私が肩を落とすのと同時に、看護師さんが入って来て検査の用意が出来たと告げた。
寝かされたまま、救急処置室から運び出される。
ドアの外には影山がいて、私が出て来ると椅子から立ち上がり近付いてきた。
『影山、これから検査とかしなきゃいけないみたい。だから、』
影「待ってる。終わるまで待っててやるから、心配すんな。桜太さんが、そのうち慧太さんが来るからって聞いてるし、状況とか、いろいろ、説明しなきゃだし」
『桜太にぃが、凄ーく怒ってるから帰ったらお説教タイムだって言ってた』
影「ぅ・・・それも心配すんな。付き合ってやる」
モゾモゾと手を伸ばすと、影山がしっかり握り返してくれた。
『城戸 紡、未知なる検査に行って来ます!』
出来るだけ明るく見えるように、笑って見せた。
影「・・・けが人のクセに、アホなこと言ってんなよ」
そう言う影山が、いつになく優しい顔をして笑っていた。
じゃ、行きますね、と言ってストレッチャーが動き出す。
少しずつ離れていく影山の姿を、私は角を曲がるまで見続けていた。