第25章 追憶
普段は特に気にせず歩く廊下が、今はとても長く感じてしまう。
落ち着くんだ・・・俺。
救急搬送の受け入れなんて、今まで何度も経験してるじゃないか。
誰がどんな状況で搬送されて来ようとも、俺は1人の医師として患者と向き合わなければならない。
エレベーターが来る間さえ待ち切れず、階段を降り始める。
そうだ、慧太にも連絡しないと。
降りながら、慧太に電話をかける。
もしかしたら、まだ仕事中かも知れない。
今日の慧太のシフトは・・・
今朝確認した事さえ、上手く浮かばない。
・・・出ない、か。
鳴り続く呼び出し音に諦めの色を見せた時、それが止んだ。
“ わりぃ、出るの遅くなった ”
「慧太!今どこにいる?!」
思わずせっついて聞いてしまう。
“ え?今?家のトイレの前だけど ”
家の?
トイレの・・・前?
予想外の慧太の答えに軽く脱力する。
「慧太・・・そういう所は、お前には勝てないな・・・今ので何か力が抜けたよ。ありがとう」
微かな笑いを浮かべながら、電話越しに告げた。
“ あ?よく分かんねぇケド? ”
「いいよ、分かんなくて。それより、落ち着いて聞いて欲しい事が・・・」
そう切り出して、これまでの事を慧太にも話す。
電話の向こう側で、慧太が動揺しているのが手に取るように分かる。
「そういう事だから、こっちに来てくれると助かる。俺は中まで入る事が出来るけど、逆に外に出る事が出来るかどうかは・・・分からないから」
“ あぁ、分かった。とりあえず今日は泊まることになるだろ? 紡の着替えやらを詰めて持って行くよ ”
「悪いな。それじゃ・・・頼む」
そう言って電話を切り、救急搬送の受け入れ口へと足急いだ。