第25章 追憶
これ以上ないくらいの笑顔を貼り付けて、更に言い切ってみた。
[ 本来は、あまりそういうのは受け付けていないんだが・・・ ]
「じゃ、今回のみって事で?緊急事態には変わりはないんだし」
「 分かった。許可しよう。その代わりくれぐれも揺らしたり落としたりはしないように頼むよ 」
『あの、待って下さい!・・・私、自分で行きますから』
紡ちゃんが急にそう言って1人で立ち上がろうとした。
『っ痛・・・』
「おっと、危ない。そんな足と体で、どうやって自力で行くの?ここは先輩に任せて」
『及川先輩だって足にケガしてるんじゃないですか?・・・だったら、』
「もう治ったから心配はいらないよ。だから、大人の言う事を・・・聞いときなさい?」
『あっ・・・』
返事を聞く前に、オレは膝を付き紡ちゃんを抱きかかえた。
[ キミもしっかり掴まっていなさい。意識障害はクリアだとしても、自足歩行には無理がある。イケメン君、慎重に、だよ? ]
「は~い、分かってます」
こんな大事な宝物を・・・粗雑に扱う訳なんてない。
「じゃあ、このままオレが」
影「城戸!」
オレが立ち上がるのと同時に、影山が声をかけて来た。
澤「紡!」
・・・澤村君も、か。
影「及川さん!」
「飛雄?」
「及川さん、城戸を運ぶなら俺が!」
紡ちゃんの荷物であろうリュックを肩に掛け直し、影山がオレに交代を申し出てくる。
「そんなに荷物抱えてんのに、ムリでしょ」
飛雄は苦い顔を見せた。
そもそも、飛雄がなんと言おうとも、変わるつもりは一切ないけどね。
あとは・・・
澤「だったら俺が代わります。それなら問題ない」
・・・ほら来た。
澤村君は飛雄に比べて、手荷物はないし。
言うと思ったんだよね。
「いいよ別に。もう抱き上げちゃってるし、俺がこのまま車まで運ぶから・・・飛雄。お前はその荷物を持って俺の後を着いて来なよ。じゃ、先に行くから」
スッと背を向け、オレは歩き出す。
『影山・・・』
紡ちゃんがオレの肩越しに、小さく影山の名前を呼ぶのが聞こえた。
・・・どうして、飛雄を呼んだ?
今。
誰よりも近くにいるのは・・・オレなのに。
足を止め、抱き上げる腕をもっと自分に寄せる。
なんだろう?・・・という顔で、紡ちゃんがオレを見上げた。