第25章 追憶
山口君の背中に腕を伸ばし、ゆっくりと撫でた。
『私もびっくりしちゃった、考えるより先に体が動いちゃって。でも、山口君にケガがなくて良かったと思ってる』
私がそう言うと、山口君は顔を上げた。
山「な、んで?オレがケガしたって、別に誰も・・・」
『ほぅら、そういう所がネガティブなんだってば』
背中に回した手を山口君の顔に当て、笑った。
『いい?もう1回言うからね?山口君は、今はまだベンチから出られないかも知れない。でも、みんなと同じ男の子だから可能性はたくさんあるんだよ?私と違って、ね?』
涙でグシャグシャになった顔を、ポケットから出したタオルで拭ってあげる。
『大地さんは私に一緒に走ろうって言ってくれた。凄く、嬉しかった。でもね、それだっていつかは、一緒に走る事が出来ない場所が来る・・・それが、公式っていう言葉で固められた、大きな試合。そこにはどうやっても私は入れない。だけど、山口君はそうじゃないでしょ?だから・・・』
山「オレ、頑張るから。いっぱい練習して、頑張って、誰にも負けない何かを手に入れたら、その時は・・・オレが城戸さんの手を引いて走ってあげる」
私の言葉に食い被るように、山口君が話し出した。
『ホント?』
山「うん・・・約束する」
『ネガティブも卒業?』
山「え・・・っと、それは、分かんない・・・」
急にたどたどしくなる山口君に、思わず笑い出してしまう。
『大地さん、今のちゃんと聞いてました?』
私の頭を氷袋で押さえる大地さんを振り返る。
澤「聞いてたよ。山口には、これから通常練習に追加して、スペシャルメニューを考えないと、だな?」
『・・・だって、山口君。頑張ってね?』
山「す・・・スペシャル・・・メニュー・・・」
目の前で考え込みながら百面相をする山口君に、もう1度笑ってしまった。
『あ、そうだ!溝口コーチ、お願いがあるんですけど・・・テーピング、外して貰えませんか?』
溝「外す?」
私が言うと、溝口コーチがテーピング固定をした足に視線を送る。
『さっき、変にバランス取っちゃって。実は今、結構痛い・・・かも』
苦笑いを見せながら言うと、溝口コーチは、何でもっと早く言わないんだ!なんて言いながら、手早くそれを外してくれた。
溝「これは・・・最初の時より腫れが来てるじゃないか・・・」