第25章 追憶
誰が見ても分かる位に腫れた足を見て、溝口コーチが息を飲んだ。
溝「もうじき救急車が来るから、とりあえずアイシングしておくしかないな」
眉をひそめながら、溝口コーチが手早く氷袋を作り足に添わせてテープで留めてくれる。
私はひたすら謝りながら、ポケットにタオルを入れようと腕を動かす。
ん?
・・・なんか、胸がスースーする?
違和感を感じる辺りを、そっと押さえてみる。
『えっ?・・・えぇっ?!なんで?!』
思わず声を上げた私をみんなが注目した。
武「どうしたんですか?」
『あ、いえ・・・あの・・・ちょっと胸のあたりが、凄く、ですね・・・ラフな気がするんですけど・・・』
なんとなく両腕で胸を隠しながら言うと、武田先生が、あぁ、それは・・・といい渋った。
『も、もしや武田先生が・・・?』
武「え?!い、いえっ、僕ではありません断じて!神様に誓っても!!」
『まさか・・・大地さん・・・』
疑いの目で、くるりと顔だけを向ける。
澤「お、俺じゃないよ!!」
『・・・本当ですか?』
疑惑の目を外さないまま、小さく確認する。
澤「本当だって!緊急事態ではあったけど、それは絶対ない!清水だよ、清水!」
なんだ・・・清水先輩だったのか・・・
あぁ、びっくりした。
って・・・
『えぇっ?!清水先輩?!』
いや、清水先輩は女の人だからいいんだけど!
でもやっぱり恥ずかしいよ!!
チラリ、と清水先輩を見れば、私に向けて小さくピースサインなんて向けている。
もう、笑うしかない・・・
澤「だいたい何で紡は俺を疑わしいを目で見るんだよ・・・」
ため息混じりに澤村先輩が言う。
『だって清水先輩が言ってたし。大地さんはムッツリ大、』
澤「わぁぁ!!やめろ!やめてくれ!ここでその名を出すな!!清水!!何とかしてくれ!」
私が言い終わる前に澤村先輩が私の口を大きな手で塞いだ。
及「ムッツリ?・・・へぇ、澤村君はそっちのタイプか・・・」
澤「ち、違う。誤解だ!・・・紡!!笑ってる場合じゃない!」
顔を赤くしながら弁明する澤村先輩が面白くて、口を塞がれたまま堪えきれない笑いを漏らした。
その後、清水先輩の計らいで男子全員後ろ向きにさせて、胸のラフな感じを直すのを手伝ってくれた。
遠くから、救急車の音が聞こえてくる。