第25章 追憶
息を切らし、ようやく公園に着いた時・・・
私の目に映ったのは・・・立ち尽くす私の頬に、そっと唇を寄せる、ハジメ先輩の姿・・・
だから、言ったのに・・・
だから、行っちゃダメだって・・・言ったのに・・・
なんてバカな・・・私・・・
あの日の私達を見て、遣りきれない思いで胸が押し潰される。
瞬きをする度に、こぼれ落ちる涙を拭う事も出来ずに、私はその場から動けなかった。
やがてハジメ先輩があの日の私から離れ、歩き出した。
私は、ここにいるのに・・・
ハジメ先輩はそれにも気が付かず、真横を通り過ぎていく。
・・・何でだろう。
声も届かなくて、誰かに触れる事も出来ないのに・・・
あの日のハジメ先輩の纏う、香りだけは分かる・・・
フラフラとした足取りで、ベンチに座り込む私の隣に、そっと腰掛けた。
隣にいる私が何を考えてるのかは、聞かなくても分かる。
悲しくて、寂しくて、本当は追いかけたいのに・・・出来ない・・・
ハジメ先輩の決意の、重荷になりたくなかった。
何も背負う事もなく、ハジメ先輩を前に進ませてあげたかった。
だから、自分のワガママに、無理やり蓋をしたんだ。
そんな気持ちに共鳴したのか・・・雨が、降り出した。
だけど、隣の私はそれを構うこともなく、泣いていた。
次第に強くなる雨は、冷たくて。
土砂降りになるまで、ここにいたんだ。
・・・よく、頑張ったね。
ハジメ先輩の前で、泣かずに頑張ったね・・・
そんな思いを込めて、触れられないと分かっていながらも、隣にいる私の頭を撫でた・・・
・・・冷たい?
何で、冷たいって・・・感じるの?
『ん・・・なん、で・・・冷た、い・・・』
澤「紡?!」
次第に揺れ動く光景に、ゆっくりと目を開けていく。
澤「紡・・・目を覚ましてくれて、良かった・・・」
『大地、さん?あ、あれ?何で・・・?』
私・・・いま、公園にいた、よね・・・?
何で、体育館にいるの?
それに、頭が・・・冷たい・・・?
澤「紡、おかえり」
ゆっくりと瞬きをしながら、自分の状況を確認していると、澤村先輩はなぜかそう言って、何度も何度も、私の頭を撫でている。
『えと・・・た・・・ただいま・・・?かな?』
澤村先輩は瞳を揺らしながら、もう1度、おかえり、と返してくれた。