第25章 追憶
武「揺らしてはいけません!!そのまま動かさないで下さい・・・頭を、打っているかも知れない。溝口コーチ、すみませんが念の為に救急車の手配を」
溝「分かりました」
救急車・・・?
その言葉に思わず膝を着いた。
「紡・・・」
震える手で、紡の頬を撫でる。
何の反応を示さない紡に、山口は嗚咽を漏らす。
武「山口君、城戸さんを寝かせましょう」
山「い、嫌だ!オレの、オレのせいなのに!」
岩「お前のせいじゃない・・・俺の打ったスパイクだ」
泣きじゃくりながら訴える山口の肩に、青城の副主将が手をかける。
金「岩泉さん!オレが取り損ねて!」
山口の動揺に、周りがどんどん引き込まれて行く・・・このままじゃ埒があかない。
「今はそんな事を言い合っている場合じゃない!!・・・スガ、山口を頼む」
俺が言うと、スガは黙って頷いた。
菅「山口、お前はこっちで少し落ち着け・・・ほら立って・・・」
山「嫌だ!城戸さんを離したくない!」
月「喚くな山口!!」
普段は物静かな月島が声を荒げ、山口は肩を跳ねた。
山「ツッキー・・・い、嫌だ、ツッキー離してよ!!」
おとなしくなった山口を月島が掴みあげて連れて行く。
溝「救急車の手配しました。状況を話したら、気道確保をして、出来れば頭を冷やしながら待て、と。それから、女性であるなら体を締め付けているものを外せ、とも」
武「体を?・・・しかしそれは・・・」
清「私がやります。私なら同性ですから、問題はないでしょう」
周りの有無を言わさずに、清水が歩み寄り両膝を着いた。
清「澤村、悪いけど城戸さん支えてて」
「分かった」
清水に言われ、頭を動かさないように体を支える。
清水は浮かせた体の隙間から手を入れ、手探りで事を済ませた。
国「コーチ!氷の準備出来ました!」
青城のコーチが、用意された氷袋をタオルで巻いて頭を包むように何箇所かに分けて置いた。
『ん・・・なん、で・・・冷た、い・・・』
「紡?!」
ゆっくり、凄くゆっくりと紡が目を開けた。
「紡・・・目を覚ましてくれて、良かった・・・」
俺はそう言って、まだボンヤリとした表情の紡をそっと撫でた。
『大地、さん?あ、あれ?何で・・・?』
「紡、おかえり」
ゆっくりと瞬きをする、まだ虚ろな紡を何度も何度も撫でた・・・