第24章 孤独と絶望感
あれは、相手が折れるまでだけじゃない。
オレが・・・折れるまで、も、だ。
いろんな事を考えながら、時折、紡ちゃんへ視線を送っても。
紡ちゃんは振り返らない。
こっち、見てよ。
振り返れ。
振り返れ!
振り返れ!!
何度念じても、紡ちゃんは姿勢正しいまま振り返る事はなかった。
よし、アップ終了!
最後に大きく伸びをして、監督の所へ向かう。
「アララ~、ピンチじゃないですか」
監「アップは?」
「バッチリです」
監督はオレをチラリと見てから、審判にメンバーチェンジの合図を出した。
今、オレが変わるべきメンバーは・・・国見。
飛雄、オマエに最後の1点は簡単には渡さない。
瞼を閉じ、軽く息を吐く。
視線を感じて目を開けると、紡ちゃんが驚きと不安が交差した表情を浮かべていた。
「そんな顔して見ないでよ、紡ちゃん。心配しなくて大丈夫、す~ぐ飛雄をやっつけて来るからさ。そしたらその後・・・オレと少~しだけ、お話・・・しようか」
『お、話・・・?』
そう、オレに取っての大事なお話。
これから先、時間はまだあるから・・・がっついたりはしない。
寧ろ、ゴールまでの道のりを楽しむための、軽く甘いひと時を過ごすお話。
「不安気な顔も可愛いよ、紡ちゃん。あ、そうだ。さっきの言ってくれたら、及川さん頑張っちゃうんだけどなぁ・・・あの、大好き!ってやつ」
さっき、バッチリ聞こえちゃったんだよね。
あれは、誰に向けて言ったのかな?
飛雄?
それとも・・・澤村君かな?
いずれにしても、オレにじゃない言葉は必要ないよね?
『・・・言いません。及川先輩はそんなのなくても大丈夫です』
紡ちゃんは少し間を開けて、オレにそんな言葉は必要ないと言い放つ。
「残念・・・。じゃ、言ってくれない代わりに・・・」
言いながらオレはは、ペンを持ったままの紡ちゃんの手をすくい上げ、そのまま手首に口付けた。
あちこちのギャラリーから黄色い悲鳴が聞こえてくる。
・・・ごめんね?
キミ達にはしてあげられない。
オレは瞬きを忘れたままの紡ちゃんを置いて、コートが戻る国見の所へ足を運んだ。
「後は先輩に任せなさい?」
国「はい・・・」
普段と変わらない口調で、国見に声をかける。
ー 岩ちゃん行くよ!今から攻めても遅くはない ー
ー 頼むぞ ー