第24章 孤独と絶望感
及「アララ~、ピンチじゃないですか」
ピンチ・・・という言葉をのんびりとした口調で言いながら、及川先輩が私の横に立った。
監「アップは?」
及「バッチリです」
バッチリ・・・って、なに?
・・・まさかここで?!
あと1点なのに!!
監「メンバーチェンジ、だな」
・・・ウソ、でしょ・・・
青城の監督が審判に合図を送り、メンバーチェンジを告げるホイッスルが鳴る。
誰と・・・代わるの?
及川先輩が入るって事は、矢巾さんとチェンジ?!
もしくはツーセッターの可能性だってある。
及川先輩とメンバーチェンジをする為に、コートの中からパタパタと足音を立て近づいてくる人物を目視して、驚いた。
・・・国見、ちゃん?
だって国見ちゃんはこれからサーブを!!
・・・?!
及川先輩が・・・ピンチサーバー・・・?
間違いであって欲しい、と、及川先輩の顔を見上げてしまう。
及「そんな顔して見ないでよ、紡ちゃん。心配しなくて大丈夫、す~ぐ飛雄をやっつけて来るからさ。そしたらその後・・・オレと少~しだけ、お話・・・しようか」
『お話・・・?』
いつもと変わらない笑顔の奥で、揺れる瞳を見せる及川先輩は、背筋をゾクリとさせた。
及「不安気な顔も可愛いよ、紡ちゃん。あ、そうだ。さっきの言ってくれたら、及川さん頑張っちゃうんだけどなぁ・・・あの、大好き!ってやつ」
『・・・言いません。及川先輩はそんなのなくても大丈夫です』
及「残念・・・。じゃ、言ってくれない代わりに・・・」
言いながら及川先輩は、ペンを持つ私の手をすくい上げ、そのまま私の手首に口付けた。
ギャラリーから黄色い悲鳴が聞こえてくる。
及川先輩はそんな事は気にしないという素振りで、コートから戻る国見ちゃんの所へと歩いて行った。
及「後は先輩に任せなさい?」
国「はい・・・」
何・・・、いまの・・・?
私は、及川先輩が口付けた感触が残る手首を押さえ、困惑しながらその背中を見送った。
国「紡、息してる?」
ひとつ開けた椅子に腰掛けた国見ちゃんか、コートを向いたまま声を掛けてくる。
『一応してる、かな?』
国「紡、お前・・・及川さんと何かあった?」
『何って・・・特に何もない、けど』
そう返しながら国見ちゃんの方を向いた。
国「バカ、こっち見んな。真っ直ぐ前向いとけ」