第24章 孤独と絶望感
岩泉先輩は持っていたハサミやテーピングを溝口コーチに渡し、立ち位置を代わる。
岩「ワリィな、ちょっと触るぞ」
『あ、はい・・・すみません』
お互いにぎこちない空気の中、指先を触れ合わせる。
それはゆっくりと手のひらに伝い、温もりを感じる事で、私の手が包まれたと分かった。
岩「俺が支えんじゃ嫌だろうが、我慢してくれ」
『そんな事は・・・』
苦しそうに小声で話す岩泉先輩に、私も小さく返して、包まれた手に視線を移す。
・・・前と変わらない、大きな手。
ちょっとカサついていて、骨張っていて。
だけど、とても優しい、大きな手。
もう・・・触れ合うことなんて、ないと思ってた。
きっと、これが最後。
そう思って、私はそっと岩泉先輩の手を握り返す。
岩「城戸・・・?」
岩泉先輩が、ピクリと指を動かし私を見る。
『グラついたら・・・危ないし・・・』
目線はそのままに、ポツリとこぼす。
その言葉に岩泉先輩も、そうだな、と返して、包んだ手を強くした。
溝「岩泉、もうちょい支えられるか?城戸さんに片足立ちして貰うから、出来ればこう、抱える感じで。城戸さんも遠慮なく岩泉に寄りかかっていいから」
え・・・?
溝口コーチの言っている事を、実行に移す前に想像する。
岩泉先輩が、抱える感じで?
私が岩泉先輩に・・・寄りかかる・・・?
・・・・・・・・・。
いやいやいやいやいやいやっ!!
頭をブンブン振り、想像したビジョンを消し払う。
『む、むむむ、ムリです!!』
溝「いや、ムリって言われてもだな・・・」
『とにかくムリです!!』
あまりの必死さに、溝口コーチも困惑を見せる。
岩「お前、全力で否定すんじゃねぇよ!テープ巻かなきゃ終わんねぇだろが!ほら来い!」
『あ、ちょっと!!わッ・・・』
グイッと引き寄せられ、岩泉先輩の胸が目の前に来る。
解き放たれた岩泉先輩の腕は私の肩にまわり、そのまま・・・腕を閉じた。
岩「コーチ、これでイイっすか?」
溝「おう、城戸さんも捕まっとけよ?」
『・・・はぃ』
周りのざわめきが、自分の心臓の音でかき消されて行く。
体中の血液が沸騰しそうな勢いで暴れだし、軽く眩暈さえ感じる。
ダメだって・・・分かってるのに。
それでも、心が距離を埋めようと募らせる。