第7章 嵐の足音
「なんで紡ちゃんと別れたりしたんだ!!アレだけ大切なものは手放すなって言ったじゃん!!」
今のコイツに何を言っても、きっと通じない。
そんな事は長い付き合いの経験から分かっている。
「言いたい事は、それだけか?・・・着替え持ってく」
ダンっ!!!と大きな音を立て、俺は体を壁に弾かれる。
何事だ、と状況確認するまでもなく、追い打ちをかけるかの様に及川が俺の胸ぐらを掴み壁に押し付ける。
「離せ」
「離さない!」
「その手をどけろ」
「イヤだね!!」
意味のない押し問答が続く。
「岩ちゃんは・・・岩ちゃんは紡ちゃんがどれだけ傷ついてるか分かってない!・・・あの子はオレにその事を話す時、手が震えていたんだ!!!」
「・・・今の俺には関係ない」
及川から目を逸らし、ひと言だけ呟く。
それ以上は何も言えなかった・・・
「あの子は・・・紡ちゃんは・・・岩ちゃんと別れちゃったし、もう何でもないからオレにも自分を構ってくれなくて大丈夫だとか、精一杯に強がって手を震わせながら言ってきたよ・・・」
「俺には関係ないっつってんだろ!!!」
力ずくで及川を押し返す。
「岩ちゃんが、岩ちゃんがそんな大バカだとは知らなかったよ!!!」
鈍い衝撃と共に痛みが走る。
感情のままに、及川が殴りつけてきたせいだ。
「今のは、紡ちゃんを泣かせた分だから!」
いきなり殴られ、呆然とする俺に及川がそう呟く。
「・・・痛ってぇな・・・」
殴られた場所に手をやる。
「岩ちゃんは、紡ちゃんの手を離したんだから・・・オレが攫っても文句は言えないよね・・・」
「知るか・・・そんな事・・・」
そう答えると、持っていったタオルを俺に投げつける。
及川を見ると、俺から視線を外しドアに手をかける。
「オレだったら、絶対泣かせたりしない!簡単に手放したりしない!!!今さら後悔しても遅いんだからね!!殴った事・・・謝んないからな!!!」
そう叫ぶと、及川は大きな音を立てながら出ていった。
何なんだよ、及川のヤツ・・・。
アイツの事で、なんでそんなにムキになってるんだよ・・・
・・・いや、まさかな・・・
湧き上がる疑念に惑わされる。
後悔なんて、そんなもん、とっくにしてるよ・・・そう思いながら壁に寄りかかり、息を吐いた・・・