第23章 それぞれの誤算
顔色を悪くした菅原さんが、細々とした声で青城のコーチを覗く。
溝「可動域や痛みの強い場所からして骨折の疑いはないと思うけど、俺も医者ではないから確定は出来ないな。それより、どの位の時間冷やしてる?」
澤「あ、それは、青城がタイム取ってからです。それまでは誰も気が付かなかったんで・・・」
溝「足を痛めたのはいつ?この腫れ方から考えて、今さっきとかではなさそうだけど」
青城のコーチに聞かれ、城戸は動揺を見せながらも、なかなか話そうとはしなかった。
「城戸」
俺が声をかけると、城戸は俺のシャツをキュッと掴み、その重い口を開いた。
『1セット目が終わる前の・・・影山の頭に、日向君のサーブが当たったあと・・・です。日向君の所へ行った影山を止めようとして、椅子から立ち上がる時に・・・』
俺の頭にサーブ・・・?
「はぁぁ?!お前だいぶ時間経ってんだろ!なんでその時に言わないんだ!!」
澤「影山」
澤村さんが何も言わずに首を横に降る。
黙ってろ、ってことか・・・
溝「その頃か・・・俺はもしかして試合前のコート練習の時かと思ったよ。国見と金田一に突っ込んでたしね。でも、いずれにしろ痛めてからかなり経ってるし、とにかく今は冷やさないと。烏野は今日は氷とかは?」
清「あ、すみません今日は・・・氷の持ち合わせはなくて・・・」
清水先輩が答えると、青城のコーチは、そっか、と言って軽く腕を組んだ。
溝「よし、監督からも許可は出てるし、青城のを使おう。氷水を使ってゆっくり芯まで冷やした方がいいだろう」
武「では僕が・・・」
武田先生が自分が受け取りに行くと言いかけた時、青城のコーチはとんでもないことを言い出した。
溝「彼女の烏野での役割は?」
澤「記録付けと、部員の世話など・・・ですが」
溝「・・・じゃあ問題なさそうだな。ここでいろいろやるより、うちのベンチに連れていった方が目が届くし、記録付けならどこでも出来るんじゃないかな」
その言葉に、周りがざわめき立つ。
城戸は何も言わない代わりに体を固くしていた。
溝「どうですか?顧問の先生さえ良ければ、ですけど」
全員の視線が武田先生に向かい、俺達全員は言葉を待った。